第28話 天使
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「すごーい、ぼたちんさんお疲れ様でーす」
千尋がぱちぱちと手を叩く。
そんな千尋を睨みながら、牡丹が荒い呼吸で肩を大きく上下させていた。
その足元にはヒーローキラーが一体倒れている。
牡丹が倒したのだ。
「どうでした? このロボット。かなり苦戦してたみたいですけど、そんなに強かったですか?」
「……見てたならわかりましたよね。強かったですよ。とんでもない強さでした。何なんですかこれは」
ヒーローキラーについてはタブレットの説明で語られていなかったので、英雄の盾から直接聞いていない者達は、これが何かを知らない。
「突然襲い掛かってきたので恐らく英雄の盾が用意した物なのでしょうが」
「危ないですよねー、何とか倒せましたけどー」
「倒したのは私ですけどね」
「もしこれが一体だけじゃなかったとしたら、どうしましょうね」
「……止めて下さい。冗談でも寒気がします」
牡丹が自分の持つ符や式神を出すのに使う紙の残り枚数を数える。
「でー? これからどうしますかー?」
「そうですね……」
牡丹が枚数を数え終わり、しまう。
「一度……」
そこで、影に気付いた。
「!?」
上に何かいる。
牡丹がすぐさま空を見上げ、千尋もゆっくり視線を上げると。
「あ」
「へぇ~、ここにはこんなのもいるんですねー。私生で初めて見ました」
そこには、背から真っ白な羽を生やした、金髪の美しい白人女性がいた。
天使だった。
神の使いと呼ばれる、人に似た姿の人ではない者。
本来の天使は性別など無かった筈だが、今の世では女性だと強くなれるのでその性を選んだのだろう。
「どうやら……あなたも英雄の盾みたいですね」
地に降り立つ天使。
穏やかに微笑んでいるが、その笑みからは親しみも友愛も感じない。
内に秘めた敵意のみが伝わる。
「そりゃそうですよね~」
千尋がクスクスと笑う。
「私達はあなたにとって滅ぼすべき異教徒の猿ですからね~。そんな猿共と仲良くなんかしてられないですよね」
「私達が嫌いかどうかと英雄の盾に入るかどうかは関係無いんじゃないですか?」
「ありますよ~。だって立場上悪を名乗るわけにもいかない彼女達が私達を堂々と殺せる数少ない方法ですもん」
「そんな事せずとも昔みたいに異教徒狩りの名目でやればいいんじゃないですか?」
「あはは~、ぼたちんさん頭の中がド田舎空っぽばかちんさんだからわからないんでしょうけど~」
「チッ!」
「ぼたちんさんみたいな馬鹿だらけの昔ならともかく現代社会でそんな事出来るわけ無いじゃないですか~。やったら人類にとって敵性存在扱いされて、逆に天使狩りが始まっちゃいますよ」
「そんなの英雄の盾に入ってたって同じじゃないですか」
「違いますって。いいですか? 組織に入っていればその行動は天使としてではなく、その組織の一員としての行動となります。そうすれば、彼女のした事は天使全体ではなく組織に入った彼女単体の行動、組織の行動として見られるので、天使という種に迷惑はかかりません。そして、英雄の盾なら人を殺す時もただの殺人ではなく、正しき心を持ったヒーローを守る為の殺人という事で自身の行動に正当な理由付けをする事が出来るので、堕天せずとも済みます。元々天使達は人を殺す事自体はタブーとしていませんからね。殺す理由さえあればいいんです」
牡丹が千尋の話を聞いた後天使の方を見てみるが、合っているのか間違っているのか、天使は全く表情も態度も変わらない。
「言葉は通じないのでしょうか」
「いえいえ、聞こえてると思いますよ。ただ私達みたいな下等生物の使う言語で話なんてしたくないってだけです」
よくわかりましたね
「!?」
「ほら」
脳内に直接天使の意思が届いた。
言葉ではなく、意味がそのまま頭に入ってくる。
ごきげんよう、愚かで薄汚く醜い家畜以下の愚民達
「……想像してたのと違うんですけど」
「天使なんてこんなもんですよ。傲慢で、残酷で、不愉快で。まぁ、容姿がいいのだけは認めますけど」
千尋が天使に話しかける。
「こんにちは、天使さん」
わざとらしい位に満面の笑みだった。
「なーんて、たかだか使い魔ごときにさんなんて付ける必要無いですよね」
……何ですって?
「だってそうですよね? あなた達の神様が作った、羽の生えた人型の使い魔。それがあなたでしょう?」
「あ」
牡丹の紙を一枚勝手に奪い、投げる。
すると、目の前にいる天使と同じ姿の式神となった。
「ほら、これと同じです」
バシュッ、とその式神が一瞬で跡形も無く消滅する。
天使が手をかざしていた。
挑発ですよね。乗ってあげましたよ?
「ぷっ、あははは! 何ですかぁ? 今の~。煽り耐性ゼロな上に負け惜しみが過ぎますよ~? 普通に苛立ってた癖に何余裕ぶって――」
天使が千尋に手をかざす。
その瞬間、光が全てを吹き飛ばした。
まるで爆撃機の爆撃のような破壊力だった。
天の使いである彼女が、身の内に秘める力の一部をただぶつけただけ。
ただそれだけの、技でも術でもない単純な一撃だったが、人相手ならば十分過ぎる程の威力だった。
手加減したつもりだったのですが。まだ強過ぎたみたいですね
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