第27話 ヒーローを倒す為の機械

「し、知ってる事はもう全部喋ったわ……」

「………………」

「本当よ!」


 森の中で地面に座り込んでいる二十代前半の女性を、十代半ば程の少女が何の感情もこもっていない目で見下ろしている。

 怯えた目で少女を見上げる女性は、英雄の盾の一員だった。

 着ている黒い男性用のコートはところどころが破れ、そこから見える肌には真新しい傷が付いている。

 その怯えた態度から見るに、恐らく少女に付けられた物だろう。


「だ、だから、だから命だけは!」

「私何も言ってないけど」


 少女が何を考えているのかわからない無表情で呟く。

 少女は黒髪のセミロングヘア―で、毛先を短く編んで三つ編みにしている。

 服装は喪服でも着ているかのように全身真っ黒だった。


「もういいよ」

「ひぃ!」

「行きなよ」

「へ?」

「いいから、もう行きなよ」

「ひぁぁああああああ!!!!」


 少女がスカートに付いていた糸くずを払ったのを攻撃の前振りか何かと勘違いし、女性は悲鳴を上げながら慌てて逃げていった。


「………………」


 それを見送った後、少女が辺りを見回す。


(ヒーローキラー、だっけ)


 ヒーローキラーの残骸が周囲に複数体分散らばっていた。

 それらは全て、彼女が一人で破壊した物だ。

 しゃがみ込み、その頭部の一つを持ち上げる。


(…………わからない)


 タブレットのメモ帳機能を開く。

 英雄の盾の襲撃からネットワーク接続が必要な機能は失われていたが、それ以外は普通に使用する事が出来た。

 邪魔な時に消して必要な時に出すという便利機能も使えなくなり、常に出しっぱなしになっているので邪魔だからと捨ててしまった者もいたが、彼女はそれを持ち歩いていた。


「これは、二型」


 中のメモを見て、うんうんと頷く。

 これは先程の女性から聞き出した情報をまとめた物だ。

 ヒーローと戦う為に作られた機械、ヒーローキラー。

 メモによると、ヒーローキラーはある発明家、HIRAGAという女性が作った物らしい。

 ヒーローを倒すと言っても、ヒーローには様々なタイプがいる。

 なのでヒーローキラーもそれに合わせて様々なタイプがおり、一型から七型まで全部で七種類存在する。

 ちなみに彼女が持ち上げている頭部は、二型ではなく三型の物だ。

 彼女の言った二型はパンプキンシードと交戦中の、魔法使いと戦う為に魔力無効化機能が付けられた物だ。

 そして今、この島にはそのヒーローキラー達が沢山いる。

 ヒーローとの相性によってはたった一体でチームを壊滅させられる程の力を持った、危険なロボットが。


「ゼクト」

「?」


 少女が自分の名前を呼ばれて振り向く。


「わんわん」

「……おい」


 そこには一頭の大きな白い犬がいた。

 その大きさは、一瞬ホッキョクグマかと勘違いする位だ。

 表情豊かで、少女、ゼクトの言葉に不服そうな顔をしている。


「あっちは片付けた。こっちも終わったようだな」

「うん」


 手に持っていた三型の頭をそっと置き、立ち上がる。


「大変な事になってしまったな」

「うん」


 犬の声は、少し低めだが女性の声だった。


「だが、私にとっては都合がよかったかもしれないな」

「うん」

「あと少し英雄の盾が来るのが遅ければ、私はお前にリタイアさせられていた」

「うん」

「勝敗がうやむやになって良かったよ、なんてな。はは、冗談だ。不謹慎だったな」

「うん」

「はは…………は、はは」

「………………」

「………………」

「………………」


(話が、続かん)


 犬が気まずそうな顔になる。


「…………なぁ」

「うん」

「私の話、聞いてるか?」

「うん」

「………………」

「………………」

「……そうか」

「うん」

「………………」

「………………」


 犬が増々気まずそうな顔になる。


「…………ひとまずだ」

「うん」

「これからの事や身の安全の事を考えると、出来るだけヒーロー同士集まった方がいいだろう」 

「うん」

「幸い私は鼻が利く。これを生かして他の新人ヒーロー達の元へ向かおう」

「うん」

「………………」

「………………」


 全くの無表情で、何を考えているのか話を本当に聞いているのか、さっぱりわからない。


「では、行くぞ」

「うん」


 だが、歩き出すと付いてくるので、一応話は聞いているのだろう。


「……なぁ」

「うん」


 犬は見かけによらず、お喋りというか沈黙が嫌いなタイプらしい。

 めげずに話題を振る。


「私の背中に、乗ってみるか?」

「………………」


 軽い冗談を振ってみたが、返事が返ってこなかった。


(……また無視か)


「乗る」

「ん?」

「乗る。うん、乗る。乗る……!」

「!?」


 物凄くキラキラした目で犬の事を見ていた。


「乗る」

「あ、ゼ、ゼクト?」


 再度言って、よじよじと背に乗り始める。

 余程嬉しかったのだろう。

 無表情のままだが、ふんすふんすと鼻息荒く、頬を赤らめ興奮している。

 これで今更冗談だったとは言えない。


「乗り心地は、どうだ?」

「うん」

「そうか」

「うん……!」


 毛をさわさわと撫で続けている。

 口に出さずとも喜んでいるのがわかる。


「ではしっかり掴まれ。走るぞ」

「うん」

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