第26話 ヒーローキラー

 梗達が自爆装置付きアンドロイドで騒いでいた頃、バトルロイヤル中の新人ヒーロー達も異変に気付いていた。

 突然全てのタブレットが持ち主の手元に出現し、そのタブレットに梗達のスクリーン同様シスの姿が映り、今の状況を説明したからだ。

 梗達はシスと会話が出来たが、タブレットの映像は事前に用意しておいた映像だったらしく一方的な物だった。

 その説明によると、この島はシス率いるヒーローの為の組織、『英雄の盾』に占拠された。

 彼女達の目的は一つ。

 ヒーローとして不適格な者達を、他のヒーロー達の足手まといとなって迷惑をかける前に、ここで処分してしまう事だ。

 その為に首輪の効果は解除した。

 これで新人ヒーロー達の安全は無くなった。

 新人ヒーロー達の頼みの綱であろう梗達は、絶対に解く事の出来ない強力な封印で閉じ込めてあり、いくら待っても助けに来る事は無い。

 バトルロイヤルという戦闘の場であっても、怪我や命の危険が無いからとどことなく緩んだ空気があったのだが、この説明を聞き一気に緊張感が高まった。

 そして、その説明を新人ヒーロー達が聞き終える頃、同じ新人ヒーローとして紛れ込んでいた英雄の盾のメンバー達も、動き出した。

 ヒーローとして不適格な者達を処分する為に。


「下がって、シーちゃん」

「いえ、私も戦います」


 そして、早和と、早和が知り合った魔法少女の前にも、英雄の盾のメンバーが現れていた。

 シーちゃんというのは、魔法少女が名乗った偽名から作ったあだ名だ。

 元の偽名はパンプキンシード、かぼちゃの種だ。

 彼女の好物らしい。


「やった、運がいいデス」


 早和を見てウキウキとした表情を浮かべる、英雄の盾のメンバー。

 褐色肌の少女だった。

 どこかの民族衣装なのだろう、水着のように露出が多い服装だった。

 彼女は胸がかなり大きいのだが、その割には体を動かしてもあまり揺れない。

 どうやらその衣装が胸をしっかりと支えて、押さえてくれているかららしい。

 髪は肩にかかるかかからないか位の長さなのだが、毛先がバラバラだ。

 自分で切っているのか、ハサミを使わずナイフのような物で切っているのか。

 何にせよ、髪質がいい分勿体なく見える。


「ワタシ、ハースと言いマス」


 ところどころズレた発音だったりはするが、流暢な日本語だった。


「あなた、サワデスヨネ? ワタシ見てまシタ。船の上でアナタのコト」


 まただった。

 船の上での早和の活躍を見て、興味を持った者。

 これからは目立つ行為を控えようと、早和が心に誓う。

 出来るだけ、だが。


「アナタとても凄かったデスネ。ワタシ興味持ちまシタ。是非ワタシと戦ってくだサイ」


 ハースが腰から武器を抜く。

 彼女の武器は短めの刃物。

 ナイフや短剣というよりは、鉈に近い形状の物だった。


「今の言い方だと、ヒーローの為の活動じゃなくただ戦いたいから戦うという風に聞こえるのですが」


 パンプキンシードが魔法のステッキを構えながら言った。


「ハイ、そうデスヨ?」

「えっ」


 その返答に驚く。


「ワタシだけじゃありませんヨ。組織の目指す物とは関係ない、別の目的を持って英雄の盾に入ったヒト、いっぱいいマス」


 どういう事かと早和とパンプキンシードが視線を合わせる。

 英雄の盾という組織は知名度が高かった。

 元々活動を隠したりはしていないし、彼女達がかざすヒーローの為のヒーローが必要だという考えに同調する者も多い。

 なので、二人は英雄の盾がどういう組織なのかを一般認識レベルでだが知っていた。

 二人が知っている英雄の盾は、ハースのような考えをしている者が集まっている組織ではない。

 もっと高い意識と理想を抱いた者が集っている組織の筈だ。

 勿論、単純に間違った情報が世間に広まっていて、二人が組織の内情を誤認識しているだけという可能性もあるが。

 だとしても、何かがおかしいと感じる。


「色々聞きたい事はありますが……」


 早和が竹刀を向ける。


「まずは、貴方を倒します。その後にゆっくり聞かせてもらう事にします」

「ハーイ、いーデスヨー」


 リスク回避で逃げ回っていた今までとは逆の、好戦的な態度だった。

 だが、その行動には理由がある。

 自分一人が生き残れば良かったバトルロイヤルとは状況が変わったのだ。

 自分が一人でも多くの相手を倒せばその分他の皆が安全になる。


「では、私も」

「アナタの相手はワタシじゃありまセン」

「え?」

「シーちゃん危ない!」

「!?」


 咄嗟の行動だった。

 前方に飛びながら空中で体を捻り、後方に魔法で防御壁を張る。


「!」


 だが、その防御壁はあっさりと切り裂かれた。

 まるで最初からそこに何も無かったかのように。

 もし前に飛ばず防御壁だけで身を守ろうとしていたら、パンプキンシードの体は防御壁の代わりにスパッと切り裂かれていただろう。


「シーちゃん!」

「だからアナタの相手はワタシデス」

「くっ!」


 素早く移動してきたハースの一撃を、早和が竹刀で受け流す。

 

「それは、ヒーローキラーというらしいデス」


 パンプキンシードの防御壁を切り裂いた者は、一体のロボットだった。

 人型で、身長は二メートル位ある。

 金属の黒い全身スーツを着た人間に見えなくもないが、関節部分を見るとその内部が人ではない事がわかる。

 ヒーローキラーというらしいロボットの右手の甲からは、一メートル位の両刃の剣が伸びていた。

 防御壁を切り裂いたのはその剣だ。


「その名前の通り対ヒーローを想定しているので、ヒーローが不利になるような力を色々と持っているらしいデスヨ?」


 一瞬早和を心配そうな目で見るが、目の前のロボットを見て人を心配している場合ではないと、パンプキンシードが飛翔する。

 宙に浮かぶと、そこで魔法のステッキを振った。

 振ったステッキからキラキラと光が生まれ、ロボットを包み込む。


「何で!?」


 それで何かが起きる筈だったのだろうが。

 何も起きなかった。


「そんな、まさか魔法が効かないんですか……?」


 パンプキンシードが絶望した声で呟く。

 するとロボットは、背に一対ある小さなジェットエンジンのような装置を作動させた。

 それは飛翔する為の物だったらしく、そこから光を発すると、一気にパンプキンシードの元へと辿り着いた。

 

「シーちゃん!」

「だからよそ見しないで下サイ」


 慌ててロボットの剣を回避するパンプキンシード、同じく慌ててハースの攻撃を竹刀で弾く早和。

 地と空で、二体二の戦いが始まった。

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