第25話 行動開始

 森の中が白い煙で満ちている。

 中に誰がいるのか、何がいるのかサッパリわからない。

 そこに、空中から銃弾の雨を降らせている者がいた。

 その者は背から金属の羽が生えており、手は肘から先が二つに分かれ、そこから銃口が出ている。

 彼女はアンドロイドだった。

 目も熱探知が出来るようになっており、その目で煙の中にいる標的を正確に狙い撃ちしている。


「おーこわ」


 そのアンドロイドを少し離れた場所から楽しそうな顔で見ている者がいた。

 太い木の枝に座り、裸足のつま先に引っ掛けたローファーをぷらぷらさせている。

 エスタをリタイアさせた、悪魔と契約している魔女だった。


「見てるのも面白いけどそろそろかなぁ」


 アンドロイドが撃っている煙の中の熱源は、彼女が作った身代わりだ。

 見ればすぐにバレるようなお粗末な姿をしているが、煙の中にいればわからない。

 とは言え、これだけ撃ち込んでも倒れないとなればアンドロイドも異変を感じ、中にいるのがただの身代わりだとバレるだろう。


「せーぇの」


 その前に終わらせようと、魔女が人差し指をアンドロイドに向ける。


「ばーん」


 煙が磁石で引き寄せられるかのようにアンドロイドの元へと集まっていく。

 アンドロイドも危険に感付きはするが煙なので触る事が出来ず、まとわりついた煙は振りほどこうとしても振りほどけない。

 集まった煙は、アンドロイドの周囲で高熱を発し始めた。

 魔女が自分の身代わりとして作った熱源とは桁違いの熱量だ。


「はい、プラースいっち」


 タブレットを爪でカツンと弾く。

 アンドロイドがリタイアとなっていた。


「んーっ、余裕ぅ」


 腕を上げて伸びをする。

 

「ん?」


 そこで、違和感を覚える。


「あらら?」


 バトルロイヤル開始時に支給された首輪に触る。


「何これ」


 首輪を外した。


「効果が……切れてる?」







            *







「おー」


 酒の入ったグラスを手に持った梗が妙な声を出す。

 飲んでいたのはウィスキーだ。

 ウィスキーはたまにしか飲まないからと、少し高級な物を飲んでいた。


「始まったかー」


 スクリーンの映像が乱れていた。


「リーダー」

「どうかした?」

「封印ー」

「うん、だね」


 赫音の言葉に頷く。

 パッ、と乱れていた映像が綺麗になった。

 だが、そこに映っていたのは先程までとは違い参加者達の姿ではなく、一人の女性の姿だった。


『あら、やっぱり驚いてくれないのね、二人共』


 スクリーンに映っていたのは、英雄の盾を名乗っていたストールを巻いた女性だった。


「いやいや、シスさんこそ俺達が気付いてた事に気付いてたじゃん」

「シスさーん」


 グラスを手に持ちながら笑う梗、そして赫音は親しげに手を振っている。

 どうやら顔見知りのようだった。


『私これでもバレないように色々と手を尽くしていたつもりなんだけれど』

「うん、赫音ちゃんにはさっきまでバレてなかったよ」

「はぁ!?」

「え、だって本当に――熱ぅ! 何これ!? 何か俺の酒沸騰してるんだけど!?」

「つーん」

「ちょ、止めて本当に! アルコール! アルコール飛ぶから!」

『ふふふ、相変わらずね二人共』


 でも、と二人の後ろを指さす。


『そろそろ真剣になってほしいのだけれど』


 二人が後ろに振り向くと、先程リタイアさせられたアンドロイドが両腕を広げて立っていた。


「自爆装置を起動します」


 そして、とんでもない事を言い始めた。


「お、これは」

「うっわー、随分エグいの用意してきたねー」


 アンドロイドは無表情だが、どことなくドヤッている雰囲気がある。


「あのー……」


 リタイア者の一人が梗達に声をかけてきた。


「自爆装置とか言ってますけど、この爆発ってそんなに威力のある物なんですか?」

「まぁ、少なくともこの中にいると確実に巻き込まれるね」

「てか、死ぬね。私とかリーダーは大丈夫だけど、皆は確実に死ぬね」

「え、し、死ぬ!? 死ぬってだって、首輪の効果は!?」

『首輪の効果、もう切ってあるわよ』


 シスの言葉に皆が慌てて確かめ、事実だとわかると途端にあちこちから悲鳴が上がり、リタイア者達が狼狽え始める。


「じゃあ早く逃げないと!」

「それも無理です」


 別のリタイア者の言葉に、今度はキリンが答える。


「ここから皆さんが出られないように封印をかけていたんですけど、いつの間にかその封印が更に強化されています。……こうなってしまうともう、内側からは解けません」

「つまり……?」

「逃げ道は無いです」


 またも悲鳴が上がり、リタイア者達が完全にパニくる。


「ちなみに」


 アンドロイドが告げる。


「自爆装置はタイマー式なのですが、私への攻撃や私への不快な発言や態度が確認された場合、即座に爆発するようになっています」


 ここにいる全員でアンドロイドを倒したり押さえ込めばいいという話でも無いらしい。


「あ、でもちょうどいいか」


 梗が沸騰していたウィスキーを、ふーふー言いながらチビチビすする。


「新人ヒーローとしての練習ミッションだ。ここにいる皆で、この自爆装置を止めてみよう!」


『えぇぇええええええええ!!!!!!!!』


 リタイア者達から驚愕の声が上がる。

 

「だってヒーローやってればこういう機会って結構あるよ? 大丈夫大丈夫、もし失敗して皆が死ぬ事になったら、俺も一緒に死んであげるから。寂しくないよ」


『いやぁぁああああああああああ!!!!!!!!』


「ちなみにさー、タイムリミットまであとどれ位あんの?」


 赫音が呑気に一口チョコの包みを開きながらアンドロイドに聞く。


「起動してから一時間です」

「あ、良かったね。思ったより余裕あるみたいだよ」

「だってさー。私は一緒に死ぬ気無いけど、ま、頑張ってー」


 へらへらと笑う梗、ひらひらと手を振る赫音。

 頼りにならない二人だった。


「さて……」


 梗がウィスキーを飲み干し、グラスを置く。


「あっちの皆はどうかな」

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