第24話 竜と少女
「先程までの威勢はどうした? 小娘共よ」
「「………………」」
巨大なドラゴンがいた。
四つ足で、伏せているのに小さなビル以上の高さがある。
その前では二人の少女が正座していた。
血を操る女子中学生から吸血鬼のリタイアを奪った、魔女みたいな恰好の少女と右手から翼の生えた少女だった。
「……この竜オスだから弱いって言ったのりーちゃんじゃん」
「……いやだって、月の呪い効いてるんだよ? そりゃ弱ってると思うじゃない」
「フンッ!」
「「ひぃっ」」
吹いたドラゴンの鼻息に炎が混じる。
「確かに、月の呪いは私達オスの力を奪い、メスの力を強化した。……だが」
ドラゴンが上半身を起こすと、人が見上げても顔がよく見えない程の高さとなる。
「元が十程度の力しか無いお前達と比較すれば、私の強さは一億だ。仮にお前達の力が十倍、私の力が十分の一にされても、その差は百と一千万」
「……例えの数値雑くない?」
「……ほら、竜って言っても所詮は羽生えたトカゲだから。トカゲにしては算数頑張ってる方だって」
「全てを焼き尽くす私のブレス、味わってみるがいい」
「「ギャーーーーーー!!!!」」
「止めて下さいりゅーおーさま。おねえさん達怖がってます」
「う、むぅ……。コトコよ、どうしてお前はそう甘いのだ。よいか? 今はバトルロイヤル中なのだ。お前にとってこの小娘共は、敵なのだぞ? 敵を怖がらせる事に何の問題がある。どうせ倒してしまう相手なのだから、」
「わざわざ怖がらせる必要なんてないと思います。お願いですから止めてあげて下さい」
「いや、しかし、……うむぅ」
竜王と呼ばれていた巨大なドラゴンが唸る。
その足元で竜王を止めるのは、幼い少女だった。
彼女の名前は、
この島に着いた時、梗に母親と弟を助けてもらったお礼を言った少女だ。
彼女は左手の中指にともだちリングという指輪をつけている。
それは、つけているとどんな相手とでも友達になれるという不思議な力を持った指輪だ。
琴子は種族の違う竜王ともこのともだちリングの力で友達になった。
とても強力な力を持った指輪だが、彼女は前に一度、このともだちリングを無くしてしまった事があった。
ともだちリングを無くすと、当たり前だがそのどんな相手とでも友達になれるという効力は彼女から消える。
だが、ともだちリングを無くしても、彼女と竜王との友情は消えなかった。
ともだちリングの力は相手と友達になる切っ掛けになるが、その後育まれた友情は決してリングだけの力では無いと証明した出来事だった。
ちなみにこの竜王。
その気になれば一息で東京を火の海に出来る程の力を持つ。
月の呪いによる弱体化が無かった全盛期には、更に強力な力を持っていた。
「それに、倒さなくてもお話すればきっとわかってもらえますよ」
「言いたい事はわかる、わかるのだがな? しかし……何と言ったものか」
だが今は、幼い少女相手に言いたい事も言えずおろおろとしていた。
「いやー、メルヘンな光景だなぁ」
血を操る力を持った女子中学生、
「助けてくれてありがとね、琴子ちゃん、竜王様」
「えへへ」
「うむ、気にするな」
「……何かごちゃごちゃと話してるよ。今がチャンスじゃない?」
「……うん、チャンスだね」
「……逃げよっか」
「……よし、逃げよう」
「逃がすわけがなかろう」
「「ひーーーー!!!!」」
竜王の一睨みで恐れおののき、二人が体を硬直させる。
右手から翼を生やしていた少女は名を
「「も、申し訳ありませんでしたーーーーーー!!!!!!」」
琴子は通りすがりだった。
四葉が律子とミネットの二人にやられそうになっていたところをたまたま見つけ、二人がかりはズルいからと参戦し、一瞬でぶちのめした。
竜王が。
その後四葉から二人の悪行を聞き、こうして反省を促している。
「なぁ、コトコよ」
「何ですか?」
「この二人を私がリタイアさせた場合、その成績はちゃんとお前の物になるのか? 私がお前の使用する道具や
「そんな言い方止めて下さい! りゅーおーさまはわたしの大切なお友達です!」
「い、いや、その気持ちは嬉しいのだが、今はそういう話をしているのではなくてだな……」
((……これだ!))
律子とミネットが顔を見合わせ、頷いた。
「琴子ちゃ~ん!」
「私達、本当に、本っ当~~~~に! 心の底から反省しました~!」
二人が嘘くさい涙を浮かべながら琴子を拝む。
「「もうズルい事はしません、だからここは見逃して下さ~い!」」
「はい、いいですよ」
「うえぇーーーーーー!!??」
竜王が目を見開いて琴子を見る。
「わたしたちはヒーローなんですから、もうこんな事をしてはいけませんよ?」
「「はーい」」
「いや、コトコ、コトコ! それはいかんぞ! 騙されておる!」
「りゅーおーさま、お二人は反省していると言っています。信じましょう」
「いや、いやいや、待て待て、待てコトコ! お前の言いたい事はわかる、わかるが、な? わかるが!」
「あはははは! 琴子ちゃんはいい子だねぇ」
四葉が笑いながら琴子の頭を撫でる。
「でも、人を信じるのはいい事だけど、人の悪意に気付く力をもう少し鍛えないといけないね」
「人の悪意?」
「そう」
四葉が口元には笑みを浮かべながら、細めた目で律子とミネットの事を見る。
「世の中には琴子ちゃんみたいな素直な子を騙そうとする、わっる~い人達がいるから、気を付けないといけないねって事」
律子とミネットが気まずそうな表情でサッと視線を逸らした。
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