第22話 白衣と淫魔とガスマスク
路地裏で少女が一人、腕で身を隠すようにしてモジモジしている。
それを二人の人物が見ていた。
一人はパンツスーツ姿で、何故か上に白衣を羽織っている。
年齢は二十代半ば程だろうか。
美しい容姿と堂々とした態度、自信に満ちたその表情から、ただ者ではないオーラを感じる。
もう一人は、青い半透明の不思議な材質で出来たドレスを着た少女だった。
髪色も綺麗な青色で、キラキラと不思議な輝きを見せている。
恐らく人間ではないのだろう。
少女と言ったが、体型から予想しただけで実際に彼女が少女なのかどうかはわからない。
何故なら彼女は、顔にガスマスクを着けていた。
「いつまでそうしているつもりだい? 早くそこから出てきたまえ」
白衣の女性が告げる。
「む、無理ですよぉ、こんな格好でぇ……」
路地裏にいる少女が真っ赤な顔をして、泣きそうな声で言う。
その理由は、彼女が着ている物を見ればわかる。
彼女が身にまとっていたのは、布面積がとても少ないマイクロビキニだった。
「こんな格好だって? そんな言い方をするものじゃない。その衣装は淫魔の君にとって、実に合理的で利にかなっている。用意してくれた君の姉に感謝するんだ」
「感謝なんて出来るわけないじゃないですかぁ」
マイクロビキニを着た少女は淫魔だった。
人を魅了し、その精気を吸い取って生きる種族だ。
外見に人との違いはあまりない。
頭から羊のような角が伸び、背には蝙蝠のような羽、尾てい骨の辺りからいかにも悪魔然とした尾が生えていたりはするが、コスプレだと言ったらそうなのかと思える程度の違いだ。
高校生になるかならないか位の未成年だが、流石は淫魔と言うべきか。
既に十分発育の良いその肉体は、男を引き寄せる魅力に溢れている。
彼女を後ろから見ると、細く紐のような水着はお尻の割れ目に隠れて、下に何も身に付けていないように見えた。
上だって最低限胸の先端を隠しているだけだ。
そしてその水着は、彼女の大きく膨らんだ胸を押さえ込むにはサイズが少々小さかった。
ちょっと激しい動きをすれば簡単に水着はズレて裸も同然になってしまうだろう。
こんな格好をしているのだ、羞恥心があるのなら路地裏から出たがらないのも当然だ。
「あの、
「ん? 何だい?」
ガスマスク少女が白衣の女性、平賀に話しかける。
「私のマスク、取ったら駄目ですか?」
「駄目とまでは言わないが、止めておいた方がいいだろう。彼女は淫魔なんだ。視覚だけではなく体臭からも相手を刺激する。興奮は単純な臭いだけではなく、フェロモンのようなものも放出しているらしい。これは異性にだけ効くものでもないみたいだし、外さない方がいいだろう」
「平賀さんは大丈夫なんですか?」
「私かい? あぁ、大丈夫だ。私は知識欲が旺盛な分性欲がかなり少ないみたいでね。彼女の魅力は理解出来るが、それ以上の欲求は無い」
「あ、あのぉ……」
淫魔が口を開く。
「せめて平賀さんの白衣だけでも貸していただくわけにはいきませんか? じゃないとここから出られないです」
「やれやれ。さっきも言っただろう? 君は淫魔なんだ。このバトルロイヤルを勝ち抜く為に自分の力を発揮しやすい服装で挑むのは当然だ。その露出が多い格好は君の能力を生かすのに実に合理的だ」
「無理ですよ! それに合理的と言うのなら平賀さんの長い髪は非合理的です!」
「髪? ……はははは! 確かにそうだ! 君の言う通りだ!」
平賀が愉快そうに笑いながら白衣を脱ぐと、淫魔に投げて渡す。
「一本取られたね。それを貸そう。さ、行こうか二人共」
スーツのポケットに手を入れるともう一枚白衣が出てきて、それを羽織る。
そんな驚くような光景を見ても、二人は無反応だった。
そういう事の出来る人だと事前に知っていたのだろう。
「行くはいいんですけど、どこに行くんですか?」
ガスマスクの少女の言葉に、平賀が答える。
「人を探す」
「人を?」
「あ、お知り合いの方を探すんですか?」
「あぁ、そうだ」
白衣に袖を通しながら淫魔に頷く。
「あの……仲間探しに知り合いを探すという意味でしたら、私の姉や妹はきっと適さないと思います。探す必要はありません」
淫魔の言葉にガスマスクの少女が続ける。
「私は……土と火はそもそもここに来ていないのでいるのは風だけなんですけど、彼女はこういう争い事が好きなので、多分仲間にはなってくれません」
「ん? 君達は何を言っているんだ?」
「「?」」
「私が知り合いを探すと言っているのは、仲間にする為じゃない。弱点や手の内をいくらか知っている知り合いなら他の相手より安全に戦えて倒しやすいからだ」
そう言ってタブレットを出す。
「君達の……姉妹と、仲間の風だったか。その彼女達について知っている事を教えてくれ」
ニヤリと不敵に笑う。
「化物揃いのこの場所で、より合理的に高い評価を得つつ生き残る方法を考えるんだ」
「そんな……」
「………………」
黙り込む二人に聞こえないよう、平賀が小さな声で呟く。
「勿論、最優先はこの状況をいかに楽しめるかだけどね」
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