第20話 敵扱い
「あの……」
「ん?」
「どうして私の横でお弁当食べてるんですかね」
カツカレーを食べる手を止めた葉が、気まずそうな顔で横に座る人の顔を見る。
「あなたとお話がしたかったんだけど、駄目かしら?」
「いえ、駄目ではないですけど……」
その人は長い金髪と長い耳を持った、エルフの女性だった。
船の上で霧を出したと紹介されていた人だ。
「どうして私と?」
「そうね……」
サラダにフォークを刺しながら、エルフの女性が空を見上げる。
「あなたが――」
*
「ごめんなさいすればこれ以上辛い目にはあわずに済みますよー?」
千尋が嗜虐心に満ちた顔でクスクスと笑う。
その前では冷たい目つきの少女が膝を折っていた。
年齢は千尋の後ろに立つ牡丹と同じか、それより少し上位だろうか。
肌の色もショートカットの髪も、真っ白な少女だった。
着ている服の色まで真っ白なのはたまたまだろうが。
「ほーら」
千尋が符を投げると、符が少女の体に張り付く。
「あぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
すると少女が苦しそうに叫び、悶える。
「熱いですよね? この首輪って酷ですよねー。いっそ皮膚が焼けちゃった方が痛みも熱さもここまで感じないのに」
「千尋さん、もういいでしょう」
牡丹が止める。
「勝負はついてます」
「えー? でもこの人ごめんなさいしてないですし、何より雪女ですよ? ただの妖怪ですよ?」
「そうですけど、だからと言って、」
もう一枚符を投げる。
「あああああああああああああーーーーーー!!!!!!」
「千尋さん!」
「私達にとって敵なんですよ? いいじゃないですか」
「敵って、何を言っているんですか!」
怒る牡丹にクスリといやらしい表情で笑う。
「何を言っているんですかはこっちのセリフですよぼたちんさーん。あなたの家族だって妖怪に皆殺しにされたんじゃないですかー」
「――っ!?」
「それで妖怪が敵じゃないなんて、本気で言ってるんですかー?」
牡丹がよろけるように一歩下がる。
一方、雪女は辛そうに表情を歪めながら、体に貼り付いた符を剥がしていた。
「はい追加」
それを見て千尋がもう一枚符を投げる。
「何度も何度も!」
だが、雪女は氷の壁を出し、それを防いだ。
「はぁ?」
千尋はそれを見て馬鹿にした顔をする。
「なっ!?」
符が一瞬で氷の壁を溶かし、消滅させて、またも雪女の体に張り付いた。
「ああああああああああ!!!!!!」
「あはははははは! もう面白過ぎます! 面白過ぎますよお姉さん!」
苦しむ雪女を見て千尋が爆笑する。
「………………」
すると、牡丹が巨大な虎の式神を出した。
「おや?」
千尋が嬉しそうな表情でそれを見る。
「遂にですか?」
「違いますよ」
牡丹が首を振る。
「これ以上苦しまないように、です」
「物は言いようですねー」
千尋の顔を見ずに牡丹が雪女を指さした。
「行きなさい」
虎が吠え、牙をむいて雪女に飛びかかる。
「!?」
雪女は一瞬怯えた表情を見せたが。
「………………」
その後諦めたように、ゆっくりと瞳を閉じた。
「せーの」
千尋が手を広げる。
「ぱっくんちょ」
そして、虎が雪女に襲い掛かる瞬間、手をグッと握った。
「こういうの柄じゃないんだけどね」
だがその時、雪女の前に人が飛び込んできて、パシン、と虎の頭を叩いた。
すると、虎はその人物の手の中でただの紙切れに戻った。
「え?」
牡丹が驚いた表情になる。
千尋はその横で、ほー、と興味深そうな表情を浮かべていた。
「ちょっと動かないでね」
更にその人物は、雪女の体に貼ってあった符をあっさりと剥がす。
「っと」
そして元は虎だった式神の紙を後ろに投げると、そこに千尋そっくりの式神が現れた。
不意打ちのつもりで千尋が投げていた符がその式神に当たり、燃えて消滅した。
「何ですか今のー、私作って盾にするとか感じ悪くないですかー?」
「感じ悪いのはお互い様じゃない?」
そう言って雪女から剥がした符を地面に投げる。
すると符が宙で黒いドロドロとした粘状の液体になり、千尋や牡丹の足元に飛び散った。
「「!?」」
その瞬間、二人が表情を歪め、鼻をつまむ。
「くっさーい!!!!」
千尋が叫んだ。
「さ、今のうち」
その間に雪女の手を取ると、走る。
「あーっ、逃げる! ぼたちんさん!」
「……はい」
鼻をつまみながら牡丹が式神を出そうとするが、途中で動きを止める。
「霧?」
突如霧が立ち込めてきたのだ。
濃い霧が雪女達の姿を隠す。
「ぼたちんさーん」
「止めましょう、ここまでです。深入りして罠だったらどうするんですか」
「ですからそれを確かめる為にもぼたちんさんが行って下さいよー」
「…………チッ」
そんな二人のやり取りに加わらず、雪女達が去って行った方向を見て、神喰らい、くいなが呟いた。
「葉さん……」
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