第19話 自分が一番

 二人の少女が歩いている。


「周り気を付けて下さいね? 何か気付いたらすぐに教えて下さい!」


 真剣な表情で元気よく声をかけたのは、肌にピッタリと張り付き、体のラインが出る服を着た少女だった。

 だがその服は生地が厚めなので、そこまで煽情的な印象は与えない。

 白をメインに、ところどころピンクの色合いになっている。

 スカートやひらひらとした飾りが魔法少女の衣装にも見えるが、右手に持った細身の剣と左手に付いた小さな盾から、彼女はただの魔法少女ではないとわかる。

 魔法少女というよりは、魔法戦士といったところか。


「ほーいす」


 腕を頭の後ろで組み雑な返事をしたのは、胸に『天上天下唯我独尊』とポップな字体で書かれた、ダサい長袖シャツを着た少女だった。

 ミニスカートから伸びる足はスラッとしていて胸元の膨らみも中々、顔を見てもとびっきりの美少女なのだが。


「ふぁぁ~……あふっ。……え? あくび? あくびなんてしてないよー、ちゃんと見てるってー、あははー」


 浮かべる表情にどうもゲスさが滲む。

 

「うーんー、何にも無い無ーい異常無しー」


 緊張感の無い眠そうな顔で手を振り、へらへらと笑う。


(にしてもツイてたな~私、こんなに扱いやすそうな子見つかって)


 ダサシャツ少女がひひひ、と悪そうな笑みを浮かべる。


「私、ツイてましたね!」

「え!?」


 思っていた事が口から出ていたのかと、ダサシャツ少女がギョッとする。


赤羽あかばさんみたいな方と出会えるなんて!」


 前を歩く少女がダサシャツ少女に振り向く。

 その表情は純粋に出会いを喜んでいるようで、含んだ感じは一切無かった。

 

「え? あー……うん、うん! だよね! だーよー! 本っ当、ツイてたよねー美亜みあちゃんは! 何たって私に! この、私に! 出会えたんだから!」


 赤羽と呼ばれたダサシャツ少女が、美亜と呼んだ少女の背をバシバシと叩く。


「い、痛っ、痛い……はい、でも本当にツイてましたよ。怪我とか受けたダメージを瞬時に治癒出来る力を持つ人なんて、そうそういないですよ!」

「そうそう! でっしょー? 私、超ーーーー凄いからね! サポート役としては最強だから、最強!」


 最強、とまたも言いながら腕を組んでふてぶてしく笑う。


「んなっはっはっは! まぁ美亜ちゃんは宝船に乗った気でいなよ! 美亜ちゃんが怪我したら私がすぐに治してあげるから!」


 親指をグッと立てる。


(私が戦う気は一切無いけどな!)


 赤羽は、はっきり言って戦う気が無かった。

 そんな危険な事はしたくない。

 前線には行かず、運ばれてきた怪我人を自分の力で治すだけ。

 そういう安全圏にい続けられる無血のヒーローを目指していた。

 無血なのは自分だけだが。


「赤羽さん!」

「へい? 何だい? 尊敬する私に何か――」


 美亜が赤羽を突き飛ばし、盾で何かを受け止める。


「私の後ろに隠れて下さい!」

「あ? お、おう……おう! うん!」


 四つん這いでバタバタと言われた通りに隠れる。

 どこからか狙撃されたようだった。

 美亜の盾からはバリアのような物が発生していて、実際の盾以上に広い範囲を防げるらしい。


「銃弾です。あっちからですね」

「え、じゅ、銃!? 銃弾!? ちょっと、はぁ!? 嫌だ! 守ってよ!? ちゃんと私の事守ってよ!? ねぇ!?」

「あの一発目から次弾は無し。失敗したので逃げたんでしょうか」

「大丈夫!? そんな小さな盾で大丈夫!? ねぇ!? 私怪我とか痛いの絶対嫌だからね!? 治してあげるから怪我ならあんただけがしてよね!?」

「大丈夫ですから、落ち着いて下さい赤羽さん」


 美亜は赤羽を落ち着かせながらも警戒を怠らない。


「私じゃ遠くから狙われると反撃出来ないので、このまま少しずつ離れて……」

「わぁぁああ!!!!」

「え!?」

「わぁぁぁぁああああ!!!!!!」

「えちょ、ちょお!?」


 赤羽が突然美亜の股の間に頭を突っ込み、足を抱えるとそのまま背負いこんだ。


「赤羽さん!? 突然何を――!?」

「盾構えて早く死ぬから死にたくないから早く!!!!」




 ガギィンッ!




「えぇ!?」

「ふぅ……やれやれ、危なかったぜ」


 咄嗟に盾を構えた美亜の視線の先に、不自然な空間があった。

 赤羽に背負われた先に見える視界には本来空の青色、森の枝木が見える筈なのだが、何故か森の幹と地面と人影が見えていた。


「空に森が!? 地面!? えぇ!?」

「よし、逃げるぞ!」

「え!?」

「しっかり私を守ってね!」

「な、え、ちょ!?」

「盾で防げなくなったらその身で防いで!」


 赤羽はどうやら美亜より先に、その不自然な空間に気付いたらしい。

 それで美亜を亀のように背負ったのだ。

 自分の身を守る為に。


「さぁ、ゴー!」


 そして走り出した。

 自分が逃げる為に。

 あくまで美亜を運んでいるのは、自分の盾としてだ。







         *







「…………すみません、またも防がれました」

「じゃあ閉じるわね」


 手をかざすと空間に開いた穴が閉じる。

 ストールを巻きなおす女性に、銃を構えていた少女が申し訳なさそうに顔を向ける。


「あの……私…………」

「いいのよ、別に。勿論倒してくれた方が都合はいいんだけど、戦力分析も兼ねているから倒せなかったのならそれはそれでデータになるわ」

「…………はい」


 少女が身を起こす。


「でも困ったわね」


 ストールを巻いた女性がタブレットを操作する。


「予定の対象が結局誰一人として倒せていないわ」

「………………すみません」

「いいのよ、別に」


 微笑む彼女が何を考えているのかわからない。


「泳がされているうちに出来るだけ進めたい事もあるんだけど……」


 チラリと宙に視線を送り、クスリと笑う。


「まぁいいわ。次に行きましょう」

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