第16話 英雄の盾

「ここにはまともな新人ヒーローなんてほんの一握りしかいないわ」


 ストールを巻いた女性の周りに何人かの人間が集まり、話を聞いている。


「三年って、そんなに長い時間じゃないわよね。子供が成長するならちょっとした時間だけれど、戦う力の発現なら、ね」


 クスリと笑う。


「今ここにいる人達って、三年前は何してたのかしら? この三年間で力を手に入れた人も多少はいるでしょうけど、でもそう多いとは思えないわよね?」


 女性が指を三本立てる。


「私が見た限りだと、三つに分かれるの。一つは、普通にヒーローをやっていた人。ヒーローとして戦っていたのに今更見習いとしてここに来る意味って、何なのかしらね。高いお給料に目が眩んだのかしら? 二つ目は、戦う事に怯えて逃げ回っていた人。今までずぅっと見ざる聞かざるを通して人の助けや悲鳴を見捨てておいて、今更何なのかしら」


 フフフ、とおかしそうに笑う。


「そして最後の一つ。それは、地球に暮らす人々の敵だった人。人と敵対して、戦って、殺しまわっていた人。おかしいと思わない? 人殺しが今更ヒーローを名乗るって、何の冗談なのかしら」


 彼女の周りには彼女の言う人殺しも混ざっているのだが、彼女がそれを気にする様子は無い。

 

「でもわかったでしょう? ここには本当の意味でヒーローとしての資格を持っている人はほとんどいないの。そもそもお給料を貰って人々の為に戦うのなら、それはもうヒーローでも何でもない。ただの会社員だわ。誰かの指示でお金の為に戦う時点で正義を名乗る事は出来なくなる。賃金が発生するとどうしても自由に動く事が出来なくなるの。救いたくても救えない人が出てきてしまう」


 それはヒーロー協会を全否定する言葉だった。


「だから……」


 女性がほほ笑む。


「こんなヒーローの名を汚すヒーローもどきの組織なんか、壊してしまいましょう」


 それを聞いて周囲にいる者達の表情に笑みが浮かぶ。


「真のヒーロー達の幸せの為に……」


 女性が胸元からネックレスを取り出す。

 そこには剣と天秤、そして盾をモチーフにしたマークが描かれていた。


「正義の為でも悪の為でもない、ヒーローの為に!」


 女性が拳を振り上げる。




「我ら、英雄の盾!」




 それは、ある組織の名だった。

 市民を守るのでも、悪人や犯罪者を守るのでもない。

 ヒーローを守る為の組織。

 それが『英雄の盾』だった。

 三年前の戦いで、ヒーロー達は苦しめられた。

 人類を滅ぼそうとする侵略者達からは勿論だが、それだけではない。

 自分達が守るべき、一般市民達からだ。

 誹謗中傷、八つ当たり、裏切り。

 極限状況の人々は、ただのか弱き存在ではなかった。

 自分達に無抵抗なヒーロー達を追い詰め、攻撃した。

 言葉で、文字で、時には直接と、様々な方法で。

 その結果ヒーローを引退した者、時には死に追いやられた者までいた。

 そんな人々に絶望したあるヒーローが作り上げた組織が、英雄の盾だ。

 市民を守る為ではない。

 市民を守るヒーローを守る為の組織。


「私達はこれから、この場にいるヒーローとして不適格な者達を排除します。力の無い、意志の弱い者がヒーローになっても、ヒーローの名を汚し、ヒーローの立場を悪くするだけだからです」


 女性がタブレットを操作して何人かの情報を表示する。


「まずは……」

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