第12話 ターゲットは早和
『おーいどこだーい?』
全長五メートルはあるロボットが、手からガトリングを撃ち周囲を一掃している。
ロボットは足が太く、短い。
頭と体が分かれていない、所謂頭足人型だった。
その形故に早くは歩けないようだが、その分足元は安定している。
両肩には巨大なガトリングガン、左手は赤く発熱する大きなナイフになっており、背には多弾頭ミサイルを積んでいた。
ガトリングはその一発一発が木々をまとめて何本もなぎ倒す程の威力があり、ナイフは木を撫でるだけで一切の抵抗を感じる事無く焼き切る事が出来る。
『剣道少女ちゃーん?』
「………………」
ロボットから聞こえる声を無視して、早和が倒れた木の陰に隠れてやり過ごそうとする。
早和はバトルロイヤルが始まってから、このロボットに限らず色々な相手からずっと狙われ続けていた。
船上で派手な一撃を披露し、最も活躍したと言える早和は、あの時の失態を埋め合わせようとする者達の格好の標的だった。
実際にはどうだかわからないが、船の上で敵と霧を一瞬で吹き飛ばした彼女を倒せばある程度の評価は付きそうだし、少なくとも梗の印象には残るだろう。
それに、彼女はあの一撃はともかくそれ以外はただの剣道少女でしか無さそうだ。
それなら倒すのも楽そうだし、それで高評価を貰えるなら一石二鳥だ、とそう思われているのだ。
早和はそうやって自分を狙う者達からずっと逃げ続けていた。
勿論、中には戦って勝てそうな相手もいた。
だが、今は戦うべき時ではないと判断したのだ。
敵が多い今、下手に誰かと戦えばそこに乱入者が現れる可能性がある。
早和は梗が説明で言っていた、ランダムで自分達を配置するという言葉を、恐らく嘘だと思っている。
本当にそういう風に配置していれば、こんなにも高確率で誰かと出会う筈が無い。
きっと戦いが起きやすいようにある程度固めて配置しているのだ。
だから早和は、少し待つ事にした。
参加者の数が減って、人がもう少し島内にばらけて、安全に戦えるようになるまで。
『ここら辺にいるのはわかってるんだよー』
だが、それにしてもこのロボットはしつこい。
中々遠くに離れてくれない。
早和をあぶり出そうと乱射するそのガトリングの威力が強過ぎて、ただ隠れているのも危険だが、だからと言って飛び出せば一瞬で蜂の巣どころかミンチだろう。
まぁこのバトルロイヤルのシステムだとただリタイアさせられるだけだろうが。
『ん~?』
ロボットの銃撃が止まった。
『お嬢ちゃん、こんなところで何をしているのかな?』
(お嬢ちゃん?)
何の事か気になり、そっと様子を覗いてみる。
「……何ですか。私に何か用ですか」
(え!?)
本当にお嬢ちゃんだった。
ランドセルを背負った小学校高学年位の少女が、ロボットの前にいた。
私立の小学校に通っていたのか可愛らしい制服姿で、デザインを合わせた帽子を被っている。
『んー……いくら怪我しないとか言われてもこれは流石にねぇ』
ロボットも少女の姿を見て扱いに困っているようだ。
危なかった。
少女を助ける為に飛び出す直前だった。
どうやらロボットに戦う気は無いらしい。
『こんなちっちゃい子相手に銃向けるのはさぁ』
「む、馬鹿にしていますか」
だが少女はその言葉を聞いて怒ったらしい。
少しだけ顔を赤くして頬を小さく膨らませる。
「いいですよ、相手になりましょう」
『えぇ? 本当に? 参ったなぁ……』
少女が胸元からペンダントを取り出し、片手で持って掲げる。
「変身っ」
『変身しちゃったよ』
少女が光に包まれ、その身にまとっていた服が変化する。
(魔法少女だ)
魔法少女の服には、ピッタリと肌に張り付き体のラインが出るタイプや、ふわふわの可愛らしさを強調したタイプ等、様々な種類がある。
彼女の服は薄い紫色を基調とした、可愛らしいふわふわしているタイプだった。
不思議の国のアリスみたいな外国の童話に出てきそうなデザインだ。
「さぁ、勝負です」
魔法のステッキを向ける。
「どこからでもかかってきてください」
『わーこわいよー、にげろー』
「あっ!?」
面倒くさくなったのだろう。
ロボットの背からジェット噴射が出て、どこかへと飛んで行ってしまった。
「ま、待ちなさい!」
呼び止める声は届いたかどうか、ロボットはすぐに見えなくなってしまった。
「……馬鹿にして」
またも頬を膨らませ、ステッキをギュッと握る。
「助かっちゃった」
「!?」
早和が隠れていた場所から出てくると、魔法少女がビクッと体を大きく揺らしその場にへたり込む。
「だ、大丈夫?」
「な!? ななな、何ですかあなた!」
ぺたんと地面に座り込んだまま、ステッキをサッと向けて全身をぶるぶると震わせる。
「あ、違う違う、誤解しないで。私あなたと戦う気は無いの」
「え?」
「私さっきのロボットに追われててそこの陰に隠れてたんだけど、それをあなたが追い払ってくれたから、そのお礼が言いたくて出てきたの」
「………………」
ジッと相手を見定めるように魔法少女が早和を見続ける。
「…………ふぅ」
早和の言葉を信じたらしい、ステッキを下げて立ち上がった。
「……おかしな人ですね」
「え?」
「今はバトルロイヤル中ですよ。助けるとか助けないとか、ましてやありがとうとか、そういう事を言い合う場所では無いと思うんですけど」
「うん。そうかもしれないね」
早和が手を揃える。
「でも私は言いたかったんだ、あなたにお礼を。だから、ありがとう」
ペコリと頭を下げる。
「……そんな事を言われても困りますよ。私は別に、あなたを助けるつもりで変身したわけではありません。あなたがいた事も知らなかったですし」
「うん、でもいいんだ。私がただ言いたかっただけだから」
「自分勝手な人です」
魔法少女の表情からは警戒心が解けていた。
「私の名前は伊東早和。あなたの名前は?」
「!?」
自己紹介を聞いた魔法少女が驚いた表情になり、今度はその顔色が赤く染まっていく。
「え? どうしたの?」
「馬鹿ですかあなたは!」
「え!?」
「こんな場所でフルネームをあっさり告げるなんて! 馬鹿としか言いようがありません!」
「え、え!? 何で!?」
「ここには名前を聞くだけで相手を縛る事が出来る人だってっ! ……あぁ、もういいです! いいです!」
「え、え、え?」
魔法少女が変身を解くと、背負っていたランドセルを降ろす。
「運がよかったですね」
「な、何が?」
そして中からノートとペンケースを出す。
「ここで会ったのも何かの縁でしょう。私があなたに一から教えてあげます」
「え?」
「さぁ、そこに座って下さい」
「えーと……え?」
「早く」
「は、はいっ」
一人でのバトルロイヤル参加に寂しさを感じて話し相手が欲しかったのか、それとも単純にお節介焼きだったのか。
早和への勉強会が始まった。
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