第07話 新人ヒーローバトルロイヤル!?

「なーんでこんな事になってるんだろう」


 葉が森の中で頭をかく。


「バトルロイヤルって……」


 手に持ったタブレットには、島のマップと参加者名簿。


「はぁ~……面倒くさいなぁーもう」







 話は一時間程前に遡る。

 梗が皆の事を認めた後、荷物を一旦預ける事になった。

 預けた荷物はここで暮らす時に住む寮の部屋まで運んでくれるらしい。

 その後、身軽になった新人ヒーロー達に何の前振りも無く突然、協会入会イベントとして行う、この島全てを使ったバトルロイヤルの説明がされた。

 事前に伝えられていた予定にある、入会の式典も何もかもをすっ飛ばしてだ。

 バトルロイヤルのルールは簡単。

 自分以外の相手を戦闘不能にするか、降参させるだけ。

 バトルロイヤルの舞台となるこの島は丸い形をしていて、中心に協会施設や学校、訓練場があり、船着き場側に店が並ぶ小さな町がある。

 それ以外は全て森になっていて、上から見ると森の部分がアルファベットの『C』のように見える。

 島には特別な術式が施してあり、バトルロイヤル中にいくら森や建物を破壊しても元通りに修復出来るので、被害を一切気にしなくていい。

 そして森や建物だけではなく戦う参加者達も怪我をしない。

 それは、梗が用意した首輪を身に着ける事でその効果を得る事が出来る。

 その首輪は怪我をするレベルの攻撃を自動で防いでくれる機能があり、戦闘不能レベルの攻撃や降参を感知すると着用者をそのままリタイア者の待機場所に転送してくれる。

 ただ、攻撃は防いでも痛みはしっかりと送ってくる上、骨折や身体損壊レベルの攻撃に関してはその部位を麻痺させて使用不能にする等の機能があるので、怪我をしないからと無理をすれば酷い目にあう。

 開始は全員の居場所をランダムに転送して島中に配置してから行う。

 参加者には迷子にならないようにタブレットが配られ、そのタブレットに地図と自分の現在位置が表示される。

 更にそのタブレットには参加者全員の名前と顔写真が載っていて、リタイアするとその情報もリアルタイムでわかるようになっている。

 誰にリタイアさせられたのかも。

 期間は今日のAM8:00から二日後のAM11:00まで。

 その時点で生き残っていた者は高い評価を得られる。

 残り何人まで数が減っていないと全員の評価が下がる、のようなペナルティは無いのでただ逃げ回って二日間を過ごしてもいい。

 ただ、当たり前だが何もしないよりはライバルを一人でもリタイアさせた方が評価は格段に高く、更に何人ものライバルをリタイアさせた上に最後まで生き残っていた場合は、リタイアさせた数と足し算ではなく掛け算で評価が付くので、積極的に戦った方が評価は格段に良い。

 それに加え、梗は戦闘に緊張感を持たせる為ある追加ルールを設けた。

 それは、悪役の存在だ。

 バトルロイヤル参加者の何人かに悪人の役柄、悪役を任せた。

 誰が悪役なのかは参加者に秘密。

 悪役を倒した場合、普通の参加者を倒すよりも高い評価を貰える。

 ただし、悪役にリタイアさせられた場合は普通の参加者に負けるよりも低評価になる。

 参加者にとってハイリスクハイリターンな存在。

 この悪役の評価は、参加者を倒す事は勿論、悪役だとバレないように振る舞う事でも加算されていく。

 更に、誰かを騙したり罠にはめたりと、悪役らしく振る舞う事でも高評価となる。

 積極的に人を騙す事を目的とした参加者がこの中にいる。

 このルールのせいで、彼女達は共に行動する仲間を作り辛くなった。







「こんな事になるならもっと手荷物持っておけば良かった」


 梗は荷物を預けさせる時、これからちょっと体を動かすから出来るだけ身軽になるようにとわざわざ皆に言ったのだ。

 そのせいでほとんどの参加者が手ぶらになってしまった。

 戦闘に必要な武器まで預けてしまった者は不幸としか言いようがない。


「どーしよっかなぁこれから」


 そう言って空を見上げながら葉がやる気なさげに木に寄りかかり、ふぁ、と呑気に一つあくびをした。







            *







「ねぇリーダー」

「んー?」


 船を降りた所から歩いて十五分程の場所に広場があり、そこに巨大なスクリーンが設置されていた。

 その前には沢山のパイプ椅子が並んでいる。

 先頭の席には長テーブルが用意されていて、そこに梗達がいた。

 バトルロイヤルのリタイア者達は皆、ここに転送される。

 巨大スクリーンでは各参加者の様子が生中継されているので、リタイア者達はここで観戦しながらバトルロイヤル終了まで待機するのだ。

 ちなみに梗達は沢山の飲み物や食べ物を用意し、完全にそれをエンタメとして楽しむ気満々だった。


「誰が最後まで残ると思うー?」


 赫音がポテトチップスの袋を開けながら問いかける。


「そうだなぁ……」


 クーラーボックスからビールの缶を出しながら、梗がうーんと唸る。


「こういうのってただ強ければ残れるって単純なもんでもないし、そういう意味で言うと……」

「あっ」


 梗がビールを開けようとすると、料理の皿を持ってきた空が皿をテーブルに置いて、慌ててビールの缶を手に取る。


「いやいいよ空。それ位自分でやるし」


 ふるふると首を振ると、ビールを注ぐ為の透明な使い捨てカップを取り出す。

 それを見て梗が別に缶のままでも良かったのにと小さく笑う。

 そんな梗に背を向けて空が缶を開けようとするが、不器用なのか中々開けられない。

 

「ほら、貸して。俺が開けてあげるよ」

「………………」


 首を振り、悔しさと恥ずかしさ、それと焦りが入り混じった顔をしながら、爪で必死にタブを弾く。

 

「空、あんまりムキになると……」

「っ!」 


 バキュッ、と音を立て、ビールの缶に穴が開いた。

 指が缶の上部を貫いてしまったのだ。


「………………」

「あ、開けてくれてありがと、空。注いでもらえるかな?」

「………………」

「違う所から開いてもカップに注げばおんなじだし、ね?」

「………………」

「で、さぁ! リーダーさぁ!」

「痛ったぁ! 何!? 腋の下に頭突きなんて初めてされたよ!?」

「誰が最後まで残ると思うかなぁ!?」

「赫音ちゃん何でそんなキレ気味なの!?」

「だって……」


 不満げに頬を膨らませる赫音を見て、考える。


「んー、そうだなー……」


 空にビールを注いでもらいながらもう片方の手でタブレットを操作すると、スクリーンにある映像が拡大された。


「こういう事もあるから、予想するのも中々難しいよね」

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