第04話 終了

「皆さんこちらです! 中へ!」


 早和が船上に降りてきた敵を竹刀で叩きながら、恐怖で戦えなくなった者達を船内に誘導する。

 早和だけではなく戦える者達は戦えなくなった者達を守ろうとするが、苦戦していた。

 人数が減った事だけが理由ではない。

 初めて経験する、誰かを守りながらの戦い。

 他者を守るという行為の難しさ。

 自分の身だけを守り、ただ敵を倒せばよかった先程までとは違う。

 視線と意識を守るべき相手にも向けなければいけない。

 戦いに集中出来ない。

 

「危ない!」

「ひっ!」

「大丈夫!?」

「う、うん、ありがとう……」


 そして、戦いそのものへの恐怖感が生まれてしまったのも、苦戦を後押ししていた。

 蝙蝠や結晶に仲間がやられてしまったのを見た。

 考えないようにしているが、連れていかれた彼女達は恐らく……。

 今まではただの試験だという安心感があったので、何も気にせず戦えた。

 だが、知ってしまった。

 これは実戦なのだと。

 怪我をしたらそれまで。

 死んでしまったら、そこまで。

 怖い。

 死にたくない。

 生き物として当然の感情であるそれが、動きを悪くしていた。

 戦う相手の選び方にも変化が生じてきていた。

 より安全な相手、狙いやすい相手にばかり向かう。

 巨大な相手、硬い相手、素早くて戦い辛い相手は避け、安全に簡単に倒せる相手を探す。

 それを皆がやる事で、後には強い敵ばかりが残り、危険がどんどん増していく。

 

「どうしよーかー?」


 花子が軽い調子で言う。

 皆が弱い敵ばかりを狙うせいで発生する負担を背負っていた一人が、彼女だった。

 だが辛そうな素振りは無い。

 彼女は精神的にも実力的にも、強かった。


「……ふぁ」

「え!? あ、あくび!?」

「!? ……し、してないよ?」

「してたじゃない! この緊急時に!」

「えへへ……」

「あぁもう! どうすんのよこれ!」


 エスタはあわあわと大騒ぎをし、葉は余程神経が図太いのかあくびを嚙み殺しながらへらっとしていた。


「あ」


 そんな中、早和がふと何かに気付いたように空を見上げる。


「もう、誰も飛んでないんですね」


 彼女の言う通りだった。

 敵に押され、いつの間にかヒーロー見習い達は皆、船上に集まっていた。


「そりゃー自分から危険のど真ん中に飛び込む人はいないよね」


 花子が早和の横に立つ。


「今あんな所に行ったら四方八方から集中砲火だもん」

「そうだよね……」

「ところでー」


 花子がニッコリと笑う。


「今の感じ、気になるなー。もしかして、誰も飛んでなかったら出来る事が何かあるの?」

「うん!」


 早和が力強く頷いた。










「うわー、無茶するなー」


 男性が空を見上げながら言う。


「何か作戦あるんだってー」


 花子がその横で笑う。

 何故かとても嬉しそうだった。


「こっちこっち! こっちです!」


 早和が花子の出した銃に次々飛び移りながら空を駆ける。

 大きな声を出して敵を呼び寄せながら。


「こっちですよー!」


 花子が出せる銃の本数には限界があるらしく、早和が飛び移るとすぐにそれを消して、また新しく出し直す。


「こっちこっち、こっちにいますよー!」


 何を目的としているのか花子にもわからない。

 ただ事前に言われていた通りに銃を出しているだけだ。

 助けを呼ぶ為に霧から出ようとしているのか。

 だがそれだと敵を集めようとしている意味がわからない。


「どうするー?」


 そこへ、アルコールで顔を赤らめた女性が歩いてきた。


「危ないしー、あの子守った方がいいのー?」


 女性が右手を伸ばすと、手の周囲に風が集まってくる。


「いや、違うんじゃないかな」


 男性が首を振る。


「多分、俺達は何もしちゃいけない。彼女は彼女なりの考えがあって自分のところに敵を集めようとしてるんだから、ここから攻撃して敵の興味をこっちに向けさせちゃ駄目だと思うよ」

「そういうもん?」

「そういうもん」


 右手に集まっていた風が散る。


「それに、彼女には既に最高のボディガードがいるみたいだし」

「うるせー」


 花子が口元以外無表情で言う。

 男性の言う通り、花子が早和を守っていた。

 足場として使う物とは別に銃を出しておき、接近してくる敵を撃ち抜く。

 早和を守る為彼女の周囲で行う派手な砲撃は、敵の注目を更に集める事が出来るので、都合が良かった。

 

「お、準備が整ったみたいだよ?」

「はぁ~、どかーん、みたいに全部吹っ飛ばす必殺技でもあるのかねぇ」

「かもしれないね」

「お? いいもん持ってんじゃーん。もーらい」

「あ」


 女性が男性の手にあるビールを奪い一口飲むが、生ぬるくなって不味かったらしく嫌そうな顔になった。


「~♪」


 花子はそんな二人を無視して鼻歌を歌っている。


「見せて、さわちゃん」


 そして、笑った。


「花子、さわちゃんの事気に入っちゃったから」


 その視線の先にいる早和の周囲には、かなりの数の敵が集まっていた。


「あ、集めるとか言ってる余裕もう無い!」


 慌てたように叫ぶと。


「田中さん!」


 大きな声で名前を呼ぶ。


「はーい、じゃあ行くよー」


 すると、早和の乗っていた銃が下から上に大きく振られ、そのタイミングに合わせて早和も跳ねる事でその体が高くまで飛ぶ。


「え、大丈夫なのあれ!?」

「耳元でうるさいぞ」


 男性の焦りに面倒そうな声を花子が返す。


「……すー……はー…………」


 宙に浮いた早和は動揺する事無く目を瞑り、深く息を吸い、吐き。

 落ち着いた様子で竹刀を頭上に構える。 


「せぇ……」


 そして、大きく目を開くと。


「……のぉ!」


 思い切り、竹刀を振り下ろした。


「うわっ、ちょ!」

「きゃあ!」


 竹刀を振り下ろした瞬間、台風でも来たかのような激しい暴風が周囲一帯に吹き荒れた。

 その直撃を食らった敵の集団は種類を問わず粉々に砕け散り、その破片すらも風に飲み込まれ残らなかった。


「み、皆ー! 姿勢を低くしてー!」

「近くにある物に掴まってー!」


 勿論、そんな攻撃が放たれれば船の方も被害を受ける。

 壊されはしないものの強い風と海の荒れで大変な事になっていた。


「ご、ごめんなさーーーーい!!!!」


 それを見て謝罪しながら落下する早和の事は、花子が銃に引っ掛けて回収していた。


「でも……凄い」


 エスタが呟く。

 早和の一撃は霧を払い、敵の姿もその大半を消し去っていた。

 何とか生き残った敵も驚愕からか動く事が出来ず、ただその場に浮かんでいる。


「じゃ、これで終了かな」


 男性がそう言った後、笛を取り出した。




 ピィィイイーーーーーーーーーー!!!!!!




「はーい、ここまでーーーー!」


 突然妙な事を言いだした男性の元に、何だ何だと視線が集まる。


「ご苦労様でした、皆さん」


 は? 何でこいついきなり上から目線?

 そんな感じの視線を何人かが向ける。


「えーと、まずは自己紹介をした方が話早いかな」


 男性が服の中からネックレスを出して、外した。




『な!?』




 その瞬間、その場にいたほとんどの人間が口をポカンと開けて、驚愕の表情になった。


「ヒーローの中には自分の正体を隠しときたいって人も多くてさ。そういう人がヒーローとしての姿を隠す為に使う認識阻害方法って色んなのがあるんだよね。これもその一つ。このネックレスを身に着けておくとどうなるかは、言うまでも無いよね?」


 ほとんどの人が彼の話を聞いていない。

 それ位驚いていた。


「と、いうわけで。中で映像流してるからわかると思うけど」


 男性が自己紹介をする。


「俺の名前は、黒沼梗。幻獣戦隊ファンタジアンの二代目ファンタジーブラック、キリンブラックをやっています。皆、宜しくね」

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