第03話 戦闘
「いっただきー!」
箒に乗った少女が蝙蝠を杖で叩く。
叩いた瞬間蝙蝠の体がピカッと光り、黒焦げになって落下していく。
「あ、ずるーい!」
「早い者勝ちだしー! これで十匹目ー!」
敵の襲撃、だなんて深刻な雰囲気は全く無かった。
戦力差が段違い。
ヒーロー見習い達は強かった。
むしろ強過ぎた。
迎撃というよりは、如何に人より多くの敵を倒せるかの点取り競争になっていた。
「凄いね」
「うん、すごーい」
それを船から見ているのは、早和と花子だった。
「君達は行かないの?」
「え?」
「んー?」
二人に話しかけてくる人物がいた。
先ほど酒を飲んで騒いでいた男性だった。
今も手にビールの缶を持っている。
「あ、私は……」
「おさけくさーい」
早和が背負っていた布袋を手に持つ。
「私はあぁいう空を飛ぶ相手とはあまり……」
「おさけくさーい」
「そっか。向き不向きあるよね」
男性がビールを一口飲む。
「君は?」
「おさけくさーい」
「ご、ごめんね?」
「うん、いいよ」
「あ、許してくれるんだ」
「花子心広いんだぁ」
「そ、そう……」
男性が困惑した顔でビールを口にしようとし、酒臭いと言われた事を思い出し、止める。
「花子は戦わないよ」
「君も彼女みたいに戦う術が無いって事かな?」
「ううん。あるよ」
「え、じゃあ何で?」
「必要無いからー」
空を指さす。
「だって今は必要無いでしょ?」
「そうでもないと思うけど?」
そう言って男性が後ろに跳ねる。
「「!?」」
と、同時。
「キィァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「シャァァアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
頭から足先まで二メートルはあるであろう巨大な蝙蝠が二匹、襲い掛かってきていた。
「一匹引き受けるねー」
「はぁっ!」
少女二人の反応は早かった。
早和は布袋の中に入っていた物を素早く抜き取って蝙蝠の頭と胴に一打ずつ撃ちこみ、花子は自分の身長の倍以上ある巨大な銃をどこからか取り出すと蝙蝠の口の中にその銃口をねじ込み、光線を発射する。
するとその頭部は破壊されるどころか、完全に消滅させられた。
「キァ……カ……ッ」
早和に打たれた蝙蝠は小さな呻き声を上げると海に落ち、花子に撃たれた蝙蝠はそれすら無くそのまま海に落下した。
「ふぅ……ビックリした」
「さわちゃんすごーい」
「凄いのは田中さんだよ。今の何? ビックリしちゃった」
少女二人がキャッキャとはしゃぐ。
「凄いなぁ二人共」
そこへ男性がノコノコと戻ってくる。
「あ、お怪我はありませんでしたか?」
早和が心配して声をかける。
「うん、大丈夫だよ。それにしても、流石はヒーローを目指すだけあるね。二人共強いなぁ。竹刀での剣術と、転送システムで自由に宇宙兵器を呼び出しての攻撃かぁ」
男性の言う通り、早和の手にあったのは竹刀だった。
そして、花子が先ほど蝙蝠に撃った馬鹿デカい銃はいつの間にか消えていた。
「あのーっ、大丈夫ですかーっ?」
すると三人の元へ少女が一人走ってきた。
大きく揺れる金髪のツインテールが目立つ。
男性的には目立って見えるのは大きく揺れる胸の方だろうが。
「私達より、上!」
早和が焦った声で叫ぶ。
「え?」
だが、金髪少女が気付くのが一瞬遅れた。
彼女が上を見た時、目に飛び込んだのは大きく口を開けた蝙蝠の牙だった。
「アールベックさん!」
「きゃっ!」
噛みつかれそうになった瞬間、茶髪の少女が金髪少女の体にタックルをするように飛び込んだ。
そのタックルと花子の砲撃が放たれたのがほぼ同時だった。
「あ、ありがとう……」
「ありがとう言ってる場合じゃないよ。油断しちゃ駄目だって」
「うん、ごめん」
「あのー、大丈夫ですかー?」
花子がわざとなのかわからないが、金髪少女と同じセリフを言いながら二人の元へとやってくる。
「ええ、こっちは大丈夫。蝙蝠倒してくれてありがとう」
「…………うん、ありがとう」
茶髪の少女が微妙な顔をしながら立ち上がる。
花子の砲撃で消し炭になった蝙蝠の燃えカスが、彼女の頭に思い切りかかっていたからだ。
助けてもらっておいてそんなくだらない事で怒るのは筋違いだと勿論わかっている。
だがその不満、表情までは隠せなかった。
「私はアールベック・エスタ。こっちの子は山吹葉さん」
「どうも」
「よろしくー。花子は田中花子。あの子はさわちゃん」
自己紹介の途中で早和と男性がやってきた。
「皆さん大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」
「うわっ、ビ、ビール走ってたらこぼれた!」
辿り着いた男性の顔を見て、エスタが嫌そうな顔をする。
うわ、さっきの騒いでた酔っ払いだ、とでも思っているのだろう。
試験監だと、演技だと、頭ではわかっていても最初に抱いてしまった嫌なイメージは中々拭えない。
「………………」
葉は男性の顔を見て。
「……ふへへ」
変な笑いを見せた。
「どうするー? これからー」
船の上に下りてこようとする敵を片端から消し炭にしながら花子が笑う。
銃は手に持つのが面倒になったのか宙に浮かせていた。
そんな事も出来るらしい。
「どうするも何も、場所が悪いわ」
エスタが肩を竦める。
「ここじゃ私は何も出来ない。悪いけどどこかに隠れさせてもらうわ」
「そうなんだー。じゃあ葉ちゃんは?」
「私はー……」
視線をチラリと一瞬どこかに向けると、苦笑する。
「ごめん、私も大した事は出来ないと思う」
「えー、そうなの? さわちゃんも空飛んでるのは相手に出来ないって言うしー」
接近してきた結晶を銃で殴り飛ばし、砕く。
「花子だけじゃないか」
宙に銃口を向け、発射。
光線を放ったまま銃口の向きを変え、薙ぎ払う。
「いやー、花子ちゃん本当凄いなぁ」
「花子が凄いんじゃなくあっちが弱いんだよ」
花子が男性に言った通り、敵は続々と霧の向こうからやってくるのだが、やってくる度ヒーロー見習い達にボコボコにされていた。
「こりゃ余裕そうだなぁ」
男性がへらっとした間の抜けた顔で笑った瞬間。
「きゃぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
少女の悲鳴が周囲に響いた。
「痛い痛い痛い! 助け、助けてぇぇええええ!!!!」
蝙蝠が三匹、空を飛んでいた少女の一人に噛みつき、足で拘束していた。
近くにいた者が助けに入ろうとするが、他の蝙蝠達が邪魔をする。
拘束している三匹も少女にガッチリと牙と爪で食らいついている上、バサバサと羽ばたき動き回るので、花子が使うような遠距離攻撃で助けようにも少女に当たりそうで難しい。
「いやぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!」
そして、蝙蝠達はそのまま少女を霧の向こうに連れ去ってしまった。
「嘘……」
「本当に……? え、本当に?」
戦っていた少女達が動揺し始める。
「ひぃ!」
そして動揺の隙を狙って、今度は結晶が別の少女に襲い掛かる。
「ガハッ! グゲ……」
結晶が腹部にめり込み動きが止まると、他の結晶も次々と突進してきて少女の全身に突き刺さる。
意識を失ったか命を失ったか、動かなくなった少女を結晶が蝙蝠の時同様霧の向こうに連れ去った。
連れていかれた少女を救出しに行こうとする者達もいたが、他の敵に邪魔をされ、上手くいかない。
そしてこの霧、どうやら様々なジャミングの効果を持っていたらしい。
ヒーロー見習い達が自分の持つ力で霧の中や外の状況をサーチしようとしたが、出来なかった。
同じように霧の外に連絡する事も出来ない。
助けを呼ぶ事が出来ない。
「し、試験監督!」
「へ?」
空を飛んでいたヒーロー見習い達が降りてきて、男性の元に集まった。
「試験を中止して下さい!」
「もうこれ以上は無理です! 怪我人が出ています!」
「早く! お願いします!」
「え? え?」
男性が皆の剣幕に狼狽えながら告げた。
「いや、試験監督って……何の話?」
「そういうのもういいですから!」
「私達もう気付いてます!」
「え?」
「お兄さんが試験監督なんだって!」
「え? 試験? これって試験なの? 何の試験?」
「で、ですから!」
「いや、ちょっと待ったちょっと待った! 皆何か勘違いしてる!」
男性が慌てながら手を振る。
「俺、試験監督じゃない! 電気配線の工事で島に行くだけでヒーローとは関係ないの!」
ビールの缶を指さす。
「大体酒飲んでたらおかしいでしょ!? 酒飲んで試験監督とか出来るわけないじゃん! そもそも素面だとして誰がどこでどんな戦い方してたのかなんて一人で見れるわけないし!」
それを聞き、納得すると同時に少女達がざわつき始める。
「え? じゃあ……」
「嘘、嫌……」
「だ、だったらあの連れてかれた子達は!? ねぇ!」
「え、待って待って。つまり今のこいつらって、試験でも何でもなく、本……物?」
理解が浸透すると、今度は恐怖が心を侵食する。
船の上にいた少女達が悲鳴を上げて逃げまどい、空を飛んでいた少女達も慌てて船の上に戻ってきた。
「え、これ俺のせい?」
「うん」
「!?」
花子にはっきりと言われ男性がショックを受ける。
「ちょ、ちょっと! 皆!」
「ま、待ってよ! ちゃんと戦って……きゃっ! 危な、もう!」
勇敢に戦い続ける者達もいるが、多くが怯え、逃げてしまった事で一気に戦力が低下し、今までのようにはいかなくなってくる。
「マズいわね……」
エスタが冷や汗を流す。
「このままじゃ全滅するわよ」
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