[2] 「バグラチオン」作戦

 4月24日、モスクワの「最高司令部」は来るべき白ロシア攻勢の最終案がまとまる前に、正面軍の再編と指揮官の再配置を実施した。

 巨大な西部正面軍は第2白ロシア正面軍(ザハロフ大将)と第3白ロシア正面軍(チェルニャホフスキー大将)に分割され、以前の白ロシア正面軍は第1白ロシア正面軍(ロコソフスキー上級大将)に改称された。これらの正面軍に合わせて、第1バルト正面軍(バグラミヤン上級大将)が白ロシア攻勢を担うことになっていた。

 また、複数の正面軍を調整するため、「最高司令部」代理としてジューコフとヴァシレフスキーが調整役として、独自の幕僚組織とともに置かれた。ヴァシレフスキーは第1バルト正面軍と第3白ロシア正面軍、ジューコフは第2白ロシア正面軍と第1白ロシア正面軍をそれぞれ担当することになっていた。

 5月22日から23日にかけて、スターリンは中央軍集団と対峙している正面軍司令官の大半をクレムリンに招集して、作戦会議を開いた。「バグラチオン」作戦の基本計画の手直しを行うためだった。

「バグラチオン」作戦はこれまでに実施された攻勢作戦と比較して、堅実な内容になっていた。作戦は大筋で2つの段階に分けられていた。

 第1段階は第1バルト正面軍と第3白ロシア正面軍がヴィテブスク、第1白ロシア正面軍がボブルイスクで最初の包囲戦を行う。第2段階はヴィテブスクとボブルイスクの周辺から白ロシアの首都ミンスクへと突破して攻勢を拡大し、ミンスクの東で中央軍集団の主力部隊を殲滅する手筈となっていた。

 この会議で修正された計画では、攻勢の第1段階にミンスクの攻略を含めるものとされた。ヴィテブスクとボブルイスクにおける包囲戦と同時に、ドニエプル河東岸から第2白ロシア正面軍は牽制攻勢を実施し、この地域に展開するドイツ軍をミンスク包囲戦まで拘束することが定められた。

 また、ミンスク攻略後の攻勢について新たに検討が行われた。第1バルト正面軍は西ドヴィナ河の堤防に沿って東プロイセンに向けて攻撃を継続し、白ロシア攻勢全体の北翼を防御することが定められた。その間、第1白ロシア正面軍はプリピャチ沼沢地南翼から西に突進し、ヴィスワ河まで到達する。これが「ルブリン=ブレスト」作戦として発展した。最終的には、550~600キロの前進を行って白ロシア全域を解放するというのが全体の構図だった。

 5月31日、スターリンは第1ウクライナ正面軍司令官コーネフ元帥とクレムリンで面談した。コーネフはリュボフ東方のドイツ軍を二重包囲してヴィスワ河に到達する攻勢案を示し、スターリンはコーネフの提案を了承した。これが「リュボフ=サンドミェシュ」作戦になった。この作戦の発動はミンスク陥落後の第1白ロシア正面軍による攻勢よりも前とされた。

 時を同じくして、モスクワの「最高司令部」は「バグラチオン」作戦の修正案を各正面軍司令部に発令した。この指令はこれまでの総攻撃の計画と異なり、各正面軍の到達しうる目標を限定していた。各正面軍の第1目標はミンスクの西方であるとされ、これは攻撃発起点から150キロ足らずの距離だった。

 5月から6月にかけて、後方任務総監のクリロフは前線からさまざまな要求をつきつけられ、大量の鉄道輸送を急き立てられた。長期的な攻勢に必要となる膨大な補給物資(弾薬40万トン、燃料および各種オイル30万トン、食料50万トンなど)の集積は厳重な保安措置の下、ドイツ軍に「主攻勢が南翼で行われるだろう」と思わせる欺瞞作戦と並行して進められた。「バグラチオン」作戦の発動日は偶然にも、ドイツ軍侵攻3年目に当たる「6月22日」にずれ込んだ。

 戦争末期のこの時期になっても、ソ連軍の兵力は中央軍集団の殲滅を達成するために十分な優位に立っていなかった。「最高司令部」が立案した最初の計画では、中央軍集団を42個師団、兵員85万人と推定していた。「バグラチオン」作戦の主攻勢を担当する3個正面軍(第1~第3白ロシア)は77個師団、兵員は100万人であった。さらに前線の数的優位を実現するため、4個軍(第6親衛軍・第8親衛軍・第11親衛軍・第28軍)と2個戦車軍(第2・第5親衛)をはじめとする兵員40万人を増援することになった。増援部隊の中には、ポーランド第1軍も含まれていた。

 最終的に「バグラチオン」作戦に参加するソ連軍の総兵力は兵員125万4300人、戦車・自走砲4070両、火砲2万4363門、航空機5327機となった。

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