第1撃 「夢との出会い」

すぅー…っごい落ちていくような。

 なんだろうなコレ。

 何もかもどうでも良くなって、全てを手放していく感覚。


 扇風機に当てられているような風を感じる。

 冷たくて、顔がヒリヒリする。


 "あれ?暗くなったかもッ!? エッ!?!?"


 突風が肌を突き刺した。


「イタッ!!ってうわっ!な"ん"た"こ"れ"〜!」


 体に突風が当てられたのではなく、突風に体が当たっていた。


「こ"れ"、お"ち"て"りゅ"〜!!」


 落ちてる。

 コレ。落ちてるな。


 くらい穴の中を落ちていく自分。


 …地面が見えた。


 "あ。俺。死ぬんだ。"


 ドンッ!!



 ………



 暗い…とっても暗い。

 ここどこ…。壁が冷たい。ゴツゴツしてる。

 山の洞窟にでも落ちた…かな?


 あれ?今まで何してたんだっけ…ッ!?!?

 いってぇ…思い出そうとすると頭が馬鹿でかい巨人の指でデコピンされたみたいだ。まぁされたことないけど。


 それよりもどこなんだ?


「すいませ〜ん!誰かいませんかぁ〜?」


 自分の声が反響して小さくなって消失した。シーンっとまるでテレビの砂嵐のように常套的に耳の中で木霊する。


 ん?テレビ?てれび?

 あぁ。あの電気の通った四角い箱のことか。

 なんか変な違和感がするけど…


 とりあえずゆっくりと壁伝いに前へ進んでみるかな。


 ん?なんだ?右前のポケットになんか入ってる感じ…

 あ…タバコとライター。

 これだけは忘れずに持って来てたんだな。

 皮肉が効いてるよ。笑える。


 上に登って行くような気がするな。


「あ!出口だ!!やっと出れるわぁ〜。」

 疲れたし家帰ったら洗濯して、風呂入って、貯めたアニメでも見るかっ!


 あれ?"あにめ?"ーー


 と考えているうちに出口を抜けていた事に気付いた。

 というか"気付かされたんだ"。


「ちょ…ちょとまて…にゃ…にゃんだよ…これ…」


 俺は見たんだ。というよりも見ざるを得なかったんだ。


 空を見上げ無くとも視界に入る規格外の"モノ"を。


 "モノ"というよりも"者"に近い。

 "者"というよりか"物"に近いといえる。


「バス?いや、飛行船か?」


 ――てか、"ばす"、"ひこうせん"ってなんだ?


 いやいやいや、問題はそこじゃないよな。

 その下で支える"物"が重要だろう。


 ソレは見たことがありそうで無かった。


「"クジラ"。」


 そう。クジラ。でも違う。"ソレ"に似して"ソレ"ならざる感じ。

 なんでって?だってそれはーー


「おい!空飛んでんじゃねぇかぁーーーーー!!!!」


「大人しく海にいてくれよなぁーー!?!?」



 ……



 よし。冷静に観察しようか。この規格外の"クジラ"を。


「んん〜。てか泳いでるクジラとは全然違うなぁ。形は似てるけど、なんていうかぁ…なんだろ。わかんねぇなぁ〜!もともとこういう形だっけ!?」


 目視で全長20〜25メートルくらいあるように見える。

 翼も生えていて右翼に2枚。同じく左翼にも2枚生えてる。

 そしてたまに前の方から蒸気らしき物を噴出してる。


「すげぇ…飛んでるよ…」


 …タバコ。タバコ吸わなきゃやってらんねぇ。


 すぅー…ふぅー。



 。。。



 うん。ある程度は頭の中で許容はできた。

 あと一つ問題があるとすれば、胴体に回された太いベルトの頂にある、一定間隔に開けられたあの長方形の箱を載せていることだ。


 分かるのは1つ。

 あの箱は人が作り上げたもので、利用価値は人間が握っていそうな事。


 そして考えられる利用価値は2つ。

 人間あるいは貨物などの運搬用。

 可能性は少ないがナニかが住む住宅用かな。


「すげぇ…」


 いや本当にすげぇ。この言葉しか語彙力のない俺には出てこないと改めて自分の馬鹿さ加減を悟り、嘆いた。


 にしても良く周りを見渡せば、他にもチラホラと空を舞う姿が見えるなぁ。


 しかもそれだけじゃない。全貌が見えないほど大きく写る惑星が見える。あれがもしかしてここの光源なのかな?


「うわぁ…なんか星のクレーターまで見えるよ…」


 俺、誰に言ってんだろって思った。


 目線を少し下に落とせば街が見えた。

 街は大きな塀に囲まれていて、四方に門のようなものが設けられているな。

 塀の外側は草原。文明の手が届いてない感じだな。


「あれ、なんだろう。」


 街の中で一際ひときわ高い石色の塔。その頂上にはひし形のものが乗ってる。


「目立つなぁ…灯台…みたいな感じなのかもなぁ」


 そのままふと足元に目をやると、ここがさっき見たのと違う形の塔である事が何となく認識できた。


 さっきの塔みたいに立派に管理されている感じはない。

 雑草、コケ、木などなどが足元、目の前に生えている。

 頭上へ垂直に目線を向ければ先端が欠けているのが分かる。

 元はひし形か逆向きの三角形なのかなぁ?


 俺が立っているところはちょっとした広場みたいな所で、前方の端には手すりがついてる。

 右側は手すりで落ちないように仕切られていて、行き止まり。

 左側は塔を取り巻くようにして、緩やかな下り坂になってる。


「てかここ本当にどこだよ。俺の知ってる世界じゃないよ。これは。」


 と思って後ろを振り返ると、さっき出てきた入り口は何事も無かったかのように塔の壁になって塞がっていた。


 え?…あれ?…夢?


「あぁ!!そうか!!これは夢なのかっ!!なんだよ〜笑。俺がおかしくなったのかと思ったじゃんかっ笑」


 …油断した。


「待たせたのう。友軍候補者どの。」


「ふぇっ!?!?」


 ふぇっ?何だそれ。


 吸い終わりそうなタバコが舞い落ちていく。


「あ…っちぃぃーーーーー!!!」


 あーあ。ダセェな俺。

 てか熱い?待て待て…え?…これ…"夢じゃねぇの?"。


「大丈夫かのう?驚かせて申し訳なかったのう。フォフォッ笑」


「だ、大丈夫です。そ、それよりもどなた??」


 茶色いローブを纏い、顔は深めに被っているフードのせいでよく見えない。

 ただ、杖を突いている右手は偉くヨボヨボだった。

 声は嗄しわがれていて、身長は俺よりも5センチくらい高い。


 あれ?俺って何センチだっけ?――

 いや、どうだっていい。


 きっとお爺さんだと思っていたら的を射ていた。


 茶色いフードをシワシワの左手で上へとはぐり、白い髪と白い髭を明かりに晒した。

 手と同じくシワシワの肌に毛が全て純白。瞳は瞼で蓋をされていて見えない。

 目空いてるのかな?見えてんのかな?


「ワシはルイーズ街の超生者専門、友軍候補者誘導員じゃよ。」


「…はぇ?」


 ……え?なに?ちょうせい?、ゆうぐん?

 何を言っているんだい?御老人様?

 俺の頭じゃ何1つ理解が出来ないぞ。


「お主は超生者として選ばれ、友軍候補者となったのじゃよ。それでワシがここに派遣されて、お主をルイーズ街へ誘導するってわけじゃのぅ。フォフォッ笑」


 フォフォッ笑。じゃねぇーーよ!


 なんだこれ?何一つ訳わかんなくなってきた…

 いや、最初から分かんなかったけど。

 やっと許容できたと思って、しかも夢だと思ってたのに…

 現実?これ現実なの?…わかんねぇ。


「お、お爺さん。今ここは日本…だったりしますか?」


 そうだ言葉は通じる。

 って事はここは日本のどこに違いない!!

 クジラとか惑星とか色々細かい所は説明出来ないけど。

 でも日本に違いない筈なんだ!!


 安堵した。


「フォフォッ。お主はニホンから来たのじゃのぉ〜。」


 否。危惧すべきだった。


「ふぁっ!?」


 そりゃ変な擬音ばかりにもなるよな。


 夢でも無ければ日本でもない。

 ちょっと待ってくれ…あれ?…"にほん"?…

 何だよこれ…にほん?ニホン?…

 やべぇ気持ち悪い。吐きそう。


 …吐いた。


「これこれ。大丈夫かのぅ?まぁよいよい。まずはルイーズ街でゆっくりと休むがよいじゃろう。詳しい説明はまた明日じゃ。フォフォッ。」


「ケホッケホッ…ぅばい。」


 ダメだ。もう分かんない。すげぇ頭痛いし、気持ち悪いし。

 今は何も考えたくない。


「では行くかのぉ。ピューっ!」


「クォーーンッ!」


 お爺さんの指笛に答えるかの如く、俺の背後上空から流れ星のように翼の生えた"イルカ"のような物が速やかに目の前で止まった。


「ははっ…」

 なんだこれ。もう笑うしかねぇなこれは。


「よしよし。ほれ、この子の背中に乗りなさいな。振り落とされないようにワシが後ろから捕まえとくでのぉ。」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 ちょうど2人くらい乗る何かの皮を鞣したシートが巻いてある。


 うわぁ。この生き物の体温だったり鼓動だったりがダイレクトに伝わってくる〜。

 すげぇわ本当に。


「しっかりと捕まっとくのじゃぞぉー!よし!ピピュー!」


 "ふわぁっ"として"びゅう"ってなった。


 あの塔から見ていた"蒸気を出す大きな生き物"とすれ違うとき、俺は…気絶した。


 俺、情けなさ過ぎるっ。泣。


「まだまだ若いのぉ〜。これからが楽しみじゃ。フォフォッ」


 "イルカ"は進んだ。空を楽しそうに泳ぐその容姿は、この街に来た新人を歓迎しているんじゃないかなと感じた。


 その新人はというと笑う老人に抱かれながら白眼でヨダレまみれで寝てるのは秘密にしておこう。

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