エピローグ・飛翔・再~Springen mehr!
――一週間後。
LPB本部ビル。信濃のショーの後、広報部が拡充され、一気に増えた広報業務。というか、もはや待機時間=なんらかのキャンペーンを行う時間となっている。行く先々で信濃の熱烈な親衛隊による精神攻撃を受ける。
「だりぃー。もう俺過労死するわ。なんで交通安全イベントとか呼ばれんの?」
泣きを入れる雪風。
「仕方ないよ。勤務時間内なんだから。法定休憩時間はちゃんと休めているんだし」
冷静に雪風をなだめる信濃。
「次、何やるんだっけ?」
「動物愛護関連の何かだったと思う」
「関係なくね? 俺ら関係ないっしょー。意味なくね?」
雪風、座り込んで駄々をこね始める。
「この衣装に着替えるらしい」
「ねー、ストとかやろうよー。ねー! ね――――ってば!」
寝転がって手足をバタバタ。五歳児並の感情表現。
信濃はその、悲鳴にも近い雪風の声を無視して、冷静にダンボールの箱を開ける。手が止まる。目が点。雪風と秋月も箱の中を覗き込む。そこに入っていたのは――
猫耳、もふもふファー仕様のタンクトップ、ショートパンツ、肉球付きの手袋、ブーツ。ショートパンツには尻尾も付いている。
著しく少年達の自尊心を損なうコスプレ的衣装。大人の悪ノリ全開の悪趣味。
信濃=猫耳だけは、そこそこ似合っている。
雪風=小柄な体躯のおかげで全パーツ着用してもなんら違和感なく、むしろ普通にかわいい。
秋月=すんごく似合わない。もう悲惨。
秋月、鏡の前に立って2秒ほどで、立ち上がれなくなるほどのダメージを受ける。
「うーっ……。何だよ、これー」
「大丈夫だよ、きっと誰も君の方は見ないから」
明らかに逆効果のフォローを入れながら、さっさと衣装を脱ぎだす信濃。元の制服を着用。
「あれ? お前、こっち着ないの?」
「無理だ」
簡潔な返事に、意志の強さと頑固さがにじみ出る。
「えーじゃあ、俺も」
秋月、猫耳をはずし、衣装も脱ぎかけるが。
「オーストリアからプロの広報用メイクさんがやってくるって言っていたから、何とかしてくれんじゃないか?」
信濃、きっちりとタイを結びながら情報提供。
「メイクさん? 女? 美人?」
不機嫌だった雪風の機嫌が、急に良くなる。
「え、何? 美人のメイクさん?」
秋月のテンションが急に上がる。
三人揃って別室のメイク用支度部屋へ向かい、ドアを開ける。
中に居たのは、プロの広報用メイク=ジュリアン・中浦・ベイカー=MPB広報部マスコミ課課長であるミゲル・千々石・ベイカーの従兄弟にしてメイクアップ・アーティスト。
「んまぁーっ! なんてかわいい男の子たちなのぉ――――――――!」
全身をくねくねさせて喜びを表現。
中浦の目、三人の少年たちを順繰りに
信濃の背中をぞわーっと電流のように走る悪寒、頭の中で瞬く
「うっ……これは……逃げろ!」
雪風、信濃、秋月、身を翻して、走り出す。
「逃げたわ! 誰か捕まえてぇ――――――――!」
中浦の声が後ろから追いかけてくる。
「上だ!」
雪風の声で階段を屋上へ向かう三人。
「捕まえろ――――――――!」
声にせきたてられるように、屋上へ出る三人。
「逃がさないわよ――――――――っ!」
中浦の声が背後で響く。
屋根を蹴る、信濃のウイングチップ+肉球付きもふもふファー仕様のブーツ×2人分。
ブーツが1個脱げる。雪風のもの。
三人の少年、空高く、飛翔――。
(第一部・完)
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