杉ちゃんは、古楽器大好き
タイトル通り、杉ちゃんは、音楽大好きです。実はこのシリーズでは、数々の古楽器が登場しますよね。古筝、バロックオーボエ、クラヴィコード。皆さん知らない名前の楽器ばかりで、どんな楽器なのか見当がつかないじゃないかと、思われる方も多いかもしれません。
バロックオーボエやクラヴィコードが登場するのは、ルネサンスからバロック時代のころです。バッハやヘンデルが活躍していたころですね。今でこそ、これらの音楽はモダン楽器で演奏されることがほとんどであり、高尚で華やかな音楽、と言えると思います。
でも最近、古楽器を復元して演奏するという試みが多く、テレビなんかでもよく登場していますし、録音なども盛んにされるようになりました。さらに、都内などでは、コンサートも行われるようになっております。それに、高級な音楽というだけでもないようで、古楽器を趣味的に習い、その人たちが集まって、バンドを組むこともできるようになりました。海外の有名な古楽器バンドが、来日して演奏することも珍しくなく、結構身近に古楽器も聞くことができます。
私自身も興味をもち、結構有名な古楽器バンドの演奏会に通いました。特にクラヴィコードの演奏は、不思議なものです。同じバッハのシンフォニアでも、ピアノで演奏するのとは、まったく違います。長調の曲であっても、なんとなく悲しい雰囲気が出て、喜びの裏で嘆いているような、そういう雰囲気がありありと感じられるのですね。一言でいえば、素敵でした。
人間社会もそうなんですけど、喜びの裏には必ず、悲しみというものがあるもんなんですよね。中には、その逆もあります。そして、それを逆手にとって、大儲けしようという悪質な人もおります。人間の歴史とはその繰り返しです。悲しいけれど、、、そうなっています。世界最古の文明と呼ばれる、シュメール文明にしろ、そういうところからスタートしていますし。人間というものは、そういう動物なんでしょうか。そして、人間はそういうことを我慢することはできませんね。それを昇華するために生まれたものが、おそらく芸術なんでしょう。音楽でも美術でも、書道でも。きっと、そうなんだと思います。だから、これからも作品は作られ続ける。
たぶん、機械文明が発達せず、表現技術が乏しかった時代は、どうしてもやるせないことも数多くあったでしょうから、人間はどうしても芸術に救いを求めることになりますね。そういうわけで昔の文学は人間の心理を正確に描くとして、高く評価されるようになるのです。それは、ある意味では、私たち現代人には二度と取り返せないのかもしれません。文学はそういうものです。
でも、楽器は、そうではありません。楽器さえあれば、しっかり音を出してくれます。弾きかたふきかたも間違えなければ正確になってくれる。ですから、すぐに当時の様子なんかを間近で感じることのできる、すごい道具なんです。
だから、そういう、古い時代の楽器を弾くと、人間がどうしてもやるせないで残していた、悲しみが、もろに出てしまうので、長調の曲でさえもなんとなく暗くて陰気臭いというか、悲しい感じになってしまうんですよね。機械文明が進んでいくにつれて、そういうところは、あまり重要視されなくなっていき、排除されていって、ピアノのような華やかな音色になっていったんでしょう。それは、時代の流れですので、
逆らうことはできないし、仕方ないことです。
でも、機械文明の頂点を極めたような現代社会、今度は、心の問題を処理することができなくなってしまったような気がします。周りのほとんどのことが、機械で処理できるようになってしまったために、肝心の心の問題が残ってしまったのか、それとも、一番解決が難しいのか、どちらかはわかりません。まあ、それは置いといて、そういうわけですので、より、人間の心について今まで以上に関心が向けられるようになりました。能率を上げるため、心の問題は、一番厄介になってしまい、それがうまくできないと差別的に扱われることも少なくありません。
そういうわけですが、、、これの処理が実に難しいのです。これまでの機械でなんとか、というわけにはいかない。ですので、何回も問題が発生しておりますが、解決どころか、さらにややこしくなっているというのが現状かな、と思います。
そういうわけで、かつての古い時代のものがまた見直されてきています。それと現代の新しいものをくっつけて、新しい芸術もたくさん創作されています。これについても賛否両論あるけれど、これは割愛。
その中で、古楽器も存在が見直されているようです。古楽器演奏がいたるところで行われ、古楽器を専攻できる大学も出てきました。これからは古いものと、新しいものが共存し、また新しい時代が始まるんでしょう。
でも、古楽器の最大のすごいところは、そういう人間の裏面というのかな、そういうところを簡単に表現できてしまうところではないでしょうか。それは、美しさというよりも、どこか泥臭いというか、素朴なところがあります。華やかで着飾った、モダン楽器とはちがい、人間らしいところがもろに出てしまう。そういうところを、杉ちゃんは大好きなんじゃないかなと思います。文字のない杉ちゃんは、人間らしい感情をもろに出してしまう男ですから。隠すこともしなければ、ごまかすこともしないのです。それが、吉と出るか凶と出るかは、本文を読んでのお楽しみ。
杉ちゃんはね、そういう飾りのないところに、魅力があって、まわりの人たちはそれに振り回されるんです。
面白いことに、杉ちゃんの大好きな楽器である古筝は、元々中国原産の楽器であり、七世紀ごろ、つまり奈良時代のころに日本にもたらされ、それが改造され日本のお箏が登場しました。と、なりますと、日本のお箏の先祖ということになります。なかなか聞くことはありませんが、最近は聞ける機会も増えました。それを聞くと、音程も極めて曖昧であり、確かに絶対音感を持っている方は、なんだかおかしいなあと思われることが少なくありません。チューナーで音を合わせようとすると、必ずほころびが出ます。なので、演奏者の方はこれを黙認して演奏しているようです。しかし、音自体を聞くと、柔らかくて甘く、まさしく女性の歌声です。日本のお箏はちょっとばかり寂しい印象もあるけれど、古筝にはそれがありません。本当に心の底から慰めるような、そんな感じ。でも、正確なところがないから、何か素人の女性が愛情いっぱいに歌っているっていうのが、的確な表現でしょうか。そうなると、やっぱり人間らしい楽器なんでしょう。杉ちゃんが惹かれてしまうのは、そこなんだと思います。
その全部を知りたい方は、古楽器の音色を聞いてみてください。
癒されるというより、泣かされますよ。
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