杉ちゃん流、着物のすすめ

久しぶりの更新です。

たぶんきっとこのシリーズを読んでいて、おかしいなと思う方も多いと思われますが、このシリーズ、主要なキャラクターの着ているものはほとんど着物です。洋服は登場していません。そうなると、時代設定がおかしいのではないかという人もいますが、悪気はなく現代設定で、電化製品も多数登場します。

実はこれ、私なりに着物の勧め、としたい意味もあり、わざとこうしています。

変だと思われる方も多いと思います。今の時代に着物なんておかしいのでは、と考える人のほうが多いのはわかってます。でも、着物って意外に使えるなというのが、今の感想ですかね。そうなると、私の個人的な主観もかなり入りますが、このシリーズを介して、少しでも着物の魅力を伝えていけたらなと思っています。

杉ちゃんたちが、洋服を持っていないのは、すでに書いてある通りですが、かくいう私も、特に必要がなければ着物で出かけてます。洋服は必要でなければ着ていません。というか、そういう場所にはよほどのことがない限りでないので、大体の外出は着物で出かけております。

きっかけは、意外なことです。18歳の時に大病し、それ以降足が悪くなって引きずって歩く生活になりました。こうなると、洋服の脱着が結構大変になるのです。スカートなんかも、かなり脱着は苦痛。なので、一度持っていたものをすべて処分して、粗末な服装に変わったこともありました。

ぜいたくな悩みかもしれませんが、もともとおしゃれ好きでもありましたので、たまらなく悲しかったです。女性が、かわいらしくなれないといいますのは、やっぱり悲しいことでもあるんですよ。

そんな中偶然、着物というものを見つけました。何よりも素晴らしかったのが、立ったまま着用できること、万歳をする必要がないことでした。それは本当に救いでした。また、色柄が華やかだったり、洋服にはない奥深さがあったりして、研究するのも面白く。とにかく、呉服屋さんを巡って、いろんな種類を買い集めましたね。着物だけではなく、帯とか防寒用の羽織を買うのもまた楽しです。一時的に、引きこもった時期もあったのですが、呉服屋さんに定期的に通うことで、悪化は免れました。

こうなると、ずいぶんお金がかかったかのように見えますが、現在古くなった着物を買い取って、安く売る呉服屋さんも多々あり、洋服とさほど変わらない値段で入手できますので、それは心配ありませんでした。むしろ、洋服より安く訪問着が買えたりしたこともあって驚いたことさえあるほどです。こういう業態をリサイクル着物、というようですが、よほどのことがない限り、新品同様で買えますので、私は、そういう店であっても呉服屋と言っています。特に、リメイク用として安く売っているものもありますが、その中でもまだまだ着れるじゃん!と思われるものもあるので、大変お得です。

まあ、そういうわけで、洋服は減少し、着物のほうが多く着用するようになりました。どんなのを着ているのかはツイッターで確認してみてください。

こういう生活をして、はや五年以上たちましたが、いまだに飽きるということはないようです。今でも、呉服屋さんとの付き合いは続いてます。

それに、着物の色柄を調べてみたりすると、結構日本の歴史や諸問題が浮かび上がってくることが多く、おもしろいんですよ。これを追求してみるだけでも、昔の日本人が考えていたことは、すごいことなんだなと改めて思います。もうちょっと説得力のある文書にすれば、評論のようなものもかけたかもしれませんが、残念ながら、そういう技術がないので、小説として間接的に伝えるようにしています。

杉ちゃんが、小説の中で言及するように、着物というものは、ある程度士農工商制度に助けてもらって繁盛していたことは確かです。例えば、最高級ブランドとなっている羽二重は、もともと公家や武家などで流通したものであるから、今でも礼装として名高いです。一方、お百姓さんたちが野良着として着用していた紬類は、現在は普段着として扱われており、これはあまり売り上げがよくないようです。確かに、普段着に着物を着る人は少ないからでしょうね。現在式典などにしか着用しない人が多いので、礼装は売れるけど、こういうものは不人気なんでしょう。もし、身分制度がまだ残っているのなら、紬は少数派に転落することはないブランドだったなと思います。

着物って、見た目はすべて同じ形ですが、生地を見ると全然違います。礼装はつるりとして、薄暗いところでも見事な輝きを見せますが、紬は光らずにザラッとしていて、頑丈で硬い布です。形が同じなので、生地で勝負しなければなりませんから。逆を言うと、礼装でも普段着でも着る方法自体は特に違いはないので、それは便利だと思うんですけど。

ちなみに、紬というブランドは、お百姓さんの着物として流通していましたが、そうではないものがありました。それが、杉ちゃんが大好きな黒大島こと大島紬と呼ばれるものです。もともとは奄美大島の農民の着物でしたが、島津藩の支配下に置かれてからは、江戸幕府にも献上されるようになっていました。さらに、これを江戸でアレンジし、「村山大島紬」と呼ばれるブランドも作られております。日本では身分制度がはっきりしていたので、もしかしたら武家にも農民にも共通で着用していたのは、大島だけだったのでは?とも思われます。そういうわけで、杉ちゃんは黒大島が大好きだ!と宣言したのでしょう。これは、本人に聞かなければわかりませんけど。

黒大島は、文字通り普段着の着物ですが、意外に結婚式などに着用してしまう人もいるようですし、法事などでも着てしまう人もいるとか。厳密にいえばルール違反ですが、今はあまり関係ないんでしょう。私も、祖母の七回忌のときに、黒大島を着ましたが、何も反論はありませんでした。あ、もちろん、法事などではおめでたい柄は避けなければいけませんが。

日本は単一民族の国家ではありましたが、その中でもひどく差別的に扱われてきた人がいました。その人たちが住んでいるところを、同和地区というそうです。彼らの人権をめぐって起こる諸問題を同和問題、あるいは部落問題といい、ここに住んでいた人が、日常着として着用していたものを起源とするのが銘仙というブランドなのだそうです(これについては諸説あり、定説ではありませんが)。ちなみに銘仙というのは当て字で、江戸時代までは目専とよばれており、この言葉は買い物をする経済力がないほど、貧しい人のことを指していました。たまに史実に忠実な時代劇では、貧しい人たちがやたら派手な格好をすることがありますが、そのためなのです。

このブランド、非常に派手な原色を用いたり、大きな花柄などを大胆に入れたりして、それまでの着物とは全く違う印象を与えることから、戦後、若者を中心にちょっとした流行を起こしております。洋服のような大ブームとはなりませんが、着物は年寄臭くていやだけど、銘仙の着物だけは別、という人は結構います。ある意味、着物の不人気を救ってくれる存在なのかもしれないけれど、起源を考えると、目上の人の前で着るのは失礼という意見もあるようです。そういうわけで、かわいいけれど人前では着るなとか、ルームウェアと同じだと思って置くようにとか、注意を呼び掛ける呉服屋は多数います。でも、ほとんどの人は、そんなことを守らないで、平気で着用してしまうため、かなり問題になっているようです。そうなれば、同和地区の人はどんな思いをするんでしょうね。たぶんきっと、複雑な思いでしょう。言ってみれば、負の遺産ともいえるかもしれません。ちなみに2013年あたりに、銘仙も日本の伝統工芸品の仲間にしてもらえたようですが、ほかのブランドに比べると、50年近く後のことでした。

それはさておき。今でこそ、着物というものは、非常に気軽に入手できる時代になりました。でも、まだまだ、着るのにはほど遠い、という人のほうが圧倒的に多いでしょう。それでは宝の持ち腐れです。意外に面白い発見もありますし、日本の歴史を知ることもできて、日本人という自覚も持てます。ですから、初めて着る人は、ブランドこそなんでもいいですから、かわいいなと思ったものを直観的に選び、着てみることからはじめてください。呉服屋さんも、歴史的なことを言うかもしれませんが、そういう知識よりも、着てみるほうが先だと思います。

近年では海外から観光に来る人も多く、日本の文化や伝統について知りたがる人も多くいますので、せめて自身の民族衣装くらい、説明できるようになりたい、という思いもあります。

杉ちゃんも、よく言いますけど、意外に着物のほうが得をすることもありますよ。




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