レオポルト・ゴドフスキー
水穂が、十八番として挙げている作曲家ですが、あまり名を知られておりませんので、裏話として解説することにします。
レオポルト・ゴドフスキー(1870-1938)は、リトアニア(旧ソ連)のソスヴィというところに生まれた人物です。モーツァルトの父親と名前が近いと突っ込みを入れたくなりますが、偶然なのか必然なのかわかりません。学歴は、14歳でベルリン高等音楽院に入学していますが、3か月で自主退学しており、和声感や音楽理論などの正式な教育は受けておらず、ほぼ独学で作曲を身に着けたようです。
10歳で演奏活動を開始し、サンサーンスなどから大絶賛されたこともあって、1890年にアメリカでデビュー。ここでアメリカ国籍に変更し、演奏活動と、音楽教室で生計を立てて、その合間に作曲をしていたようです。
演奏家としては、非常に有名ではありましたが、作曲家としてはほとんど無名に近く、とにかく信じられないほどの難しさで、ほとんどの演奏家が匙を投げてしまい、ピアノのイメージをぶち壊したなどの評価しかつかなかったと言われております。シリーズの中でも言及されてはいますが、楽譜の出版をしても、あまりの難しさに販売の見込みもなく、すぐに返品されて絶版という楽曲も多かったようです。と、言うわけで、彼の作品は殆ど忘れ去られており、現在出されているものは、ほんの一部でしかないようです。一度、ほぼすべての楽曲が出版されなくなり、再出版されたのは、2004年という二十一世紀になってからのことでした。
代表作といいますと、水穂が「あなたを探して」で演奏していた「ショパンの練習曲に基づく53の練習曲」くらいでしょうか。実はこれ、「世界一難しいピアノ曲」ともいわれております。読んで字のごとく、ショパンの練習曲を改造したものですが、まさしく「ピアノが爆撃機」そっくりです。ちょっとおかしな表現かもしれませんが、まさしくその通りです。と、いうのは、たたきつけるように弾かないと、演奏はできないほどの難曲。現在のピアニストでも「一度に七曲以上弾くと体を壊す」などの悪評があり、聞く側もちょっと構えて聞かないと、全曲通して聞くことはできないでしょう。
リサイタルなどで、これを演奏したピアニストは、今のところ二人しかいないそうで、女性の挑戦者は全くないそうです。ちなみに私も、やってみようと思ったことはありましたが、あまりにも難しすぎて、三日で脱落しました。
本人がどういう経緯でこの練習曲を書こうと思ったのか全く分かりませんが、いずれにしても当時の評価は全く悪評で、「ショパンの練習曲を改悪した」というレッテルは、生涯ついてまわってしまいました。これが、ゴドフスキーの名声を落とした原因だったかもしれませんが。
その他、有名な作品としては、「パッサカリア」や、焔で登場した「ジャワ組曲」などもあります。いずれも、目が回るほどの難しさを誇る難曲で、二十一世紀になるまで、取り上げられることはほぼない曲でした。
まあ、音楽大学に入るまでは、私も存在すら知らない作曲家であったのですが、一度だけ、ピアニストをしている友人から、「ジャワ組曲」を聞かせてもらったことがありました。もう、次から次へ出てくる技巧的さから、卒倒するくらいのけたたましい曲でした、、、。
本人もそれはよく知っていたのか、生前は交響曲などをピアノ用に編曲するなどの活動しかできなかったようです。
しかし、人間の能力というか、、、すごいなと思いますね。ここまで難しいのが書ける頭があったんですからね。まあ、当時演奏されることがなかったのは、昔の人たちが体が小さいという事情もあったでしょうし、戦時中ということもあって、時代が悪かったということもあるでしょう。意外に音楽史を勉強すると、そういう人は結構います。政治家のフリードリヒ二世なんかもそうですが、「早く生まれすぎた人」というのかな、すごく偉いのに、生きていた当時の風習に合わず、結果として潰されてしまった人です。そうなると、ゴドフスキーも、かわいそうな人であったと言えますね。今になって、ちょっとずつ取り上げてくれる演奏家も増えているようですが、超有名人であるウラジミール・ホロビッツの酷評もあり、まだまだレッテルから、脱出することはできていないようです。テレビなんかでも登場することは全くありません。ショパンなんかは、よく出るんですけどね。意外に比較して聞かせてくれたら、面白いのにな、なんて思ったこともありました。
ちなみに、その友人が言ってましたが、あまりにも難しすぎるせいで、汚い音ばっかり出す人かと思われたが、指定テンポではなくゆっくりと弾くと、意外に和音とか綺麗だったぜ、とのこと。まあ確かに、焼夷弾のようにたたきだされる音を追っかけるだけでも疲れるのですが、一つ一つの音や、メロディは意外に悪くありません。もしかしたら、メロディに簡単な伴奏を付けただけのバージョンがあれば、もうちょっとヒットしたのではないでしょうか。「ジャワ組曲」の第二曲みたいにのんびりとした曲もありますので。
まあ、このように悪評ばかりくっつくことが多いゴドフスキーですが、水穂の十八番になったのは、正直に言うと理由は思いつかなかったんです。まあ、彼の出身階級では、音楽で成功することはまず無理と言われますので、こういう難しい曲を弾いて名声を獲得したという設定にさせてもらいました。水穂も、出身階級というか、歴史的な事情により、端正な容姿でなかったら、有名にはなれませんでしたから。勿論ショパンとかでもよかったけれど、ショパンではあまりにも知られすぎて、多分、武器にすることはできないでしょう。まあ、ゴドフスキーが階級のせいで成功できなかったということはないのですが、もしかしたら、水穂も共通したところはあったかもしれませんね。
そこらへんは、これからの小説でゆっくり書いていこうと思っています。
とにかく、ゴドフスキーの曲を知りたい人は、タイトルなどどうでもいいので、まず聞いてみてください。「ピアノが爆撃機になった」という表現がよくわかると思います。
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