第7話 ぶちのめしてやる


「一機だけ、白い……?」


 アヴェルはその視界の先に六機の敵戦闘機を捉えていた。そのうちの一機、先頭を飛行する白い敵機に釘付けになっていた。


 だが、アヴェルがその編隊に違和感を覚えたその時、黒い敵戦闘機五機が一斉に、白い機体へと攻撃を開始した。


『アヴェル……あれ何!?』

「知るわけねぇだろ! だが好都合だ──」


 アヴェルはそう言いながら、機体を敵機の後方へ回り込むように進路をとった。


『アヴェル! 私たちだけじゃ──』

「援軍待ってる余裕なんてねぇんだよ! 怖いなら離れてろ」


 アヴェルはリタの通信にそう答えながら、前面コンソールパネルを操作する。


FCS火器管制システム起動、オールウェポンズフリー全兵装解放LAM長距離対空ミサイル装填。ランチ回転、ベイ解放──」


 アヴェルは呪文を唱えるように戦闘準備を始めていく。その呪文に応えるように、アヴェルの機体の腹部が開き、四発のミサイルが出現する。そしてアヴェルのバイザーに四つのひし形のロックオンサークルが現れる。


「……ぶちのめしてやる」


 アヴェルが呼吸を整えていく中、四つのサークルが黒い影をそれぞれ捉えて赤く輝いた。


「ジプシー4。フォックス3ミサイル発射!──」


 アヴェルは掛け声とともに操縦桿のトリガーを引いた。そしてすかさず四つの白煙がロックした敵機にそれぞれ迫っていく。


「次弾装填、QAM高誘導対空ミサイル……セット──」


 一機はそのまま白い機体を追い、ミサイルに狙われた四機は、ミサイルの存在に気が付きそれぞれ回避行動に移っていく。その中から僅かに他から離れていく敵機をアヴェルは見極めて、すかさず接近していき、新たに現れたサークルの中心にその敵機を捉えた。


「フォックス2!──」


 アヴェルは再度トリガーを弾いてミサイルを放つ。鋭く円弧を描きながら、高誘導性のミサイルが襲いかかる。


 一発目のミサイルで分断し各個撃破。アヴェルの得意とする先制攻撃だ。その後も素早く敵の背後に回り込み、次々と鉄塊を生み出していく。機動力の高い敵戦闘機を確実に一機ずつ撃ち落としていく事ができるのは、アヴェルの高い空間把握能力と正確無比な操縦技術があってこそだ。


 だが狙われた黒い敵戦闘機は、迫り来るミサイルを急旋回して間一髪で回避して見せた。


「何っ!? ちっ……だったら!──」


 アヴェルもすかさず後を追うために急旋回をかける。座席に沈む身体に力を入れながら再び敵機を視界に捉える。


HVAM超速対空ミサイル、空中炸裂モード……セット!──」


 アヴェルが次弾を宣言してからロックオンするまでわずか数秒足らず。すかさずアヴェルはトリガーを弾く。


 放たれたミサイルは凄まじい速さで白煙を伸ばし、敵機との距離を詰めていく。


 しかし黒い敵戦闘機は、その超速ミサイルに迫られてもなお、確実に回避できる機動をアヴェルに見せつけた。だがミサイルは敵機の近くまで詰めたところで爆発を起こして、避けた敵機を巻き込んでいく。その爆発に連鎖するように、機体は炎を吹きながら灰色の海に墜ちていく。


「くそ……ここまでやってようやくかよ……」


 息の乱れたアヴェルの頬を、一筋の汗が流れ落ちる。今はまでになかった感覚に、アヴェルの胸はざわつき始める。


(コイツら……強い──)


 これまで、アヴェルが二発目のミサイルで撃墜できなかった敵機はいなかった。にも関わらず、二発目は容易く回避された。その上、三発目は保険を掛けた空中炸裂仕様。でなければ撃墜はできなかった。


 アヴェルは始めて、空の上で不安を感じていた。恐怖にも似た感情がじわじわと浮き上がり、呼吸を整えることができずにいた。操縦桿を握る手、グローブの内側がわずかに汗ばむ。


caution注意──背後に敵機確認。caution──」

「ッ! しまった──」


 我に返ったアヴェルはすぐさまスロットルを最大にして、引き千切るような勢いで操縦桿を引き起こす。空戦機動を織り交ぜながら、不規則な動きを繰り返す。旋回の途中で背後を確認する。主翼から伸びる航跡雲のその先には、二つの黒い敵影があった。


 アヴェルは回避機動を取りながら、背後に回ろうと急旋回を続けるが、背後を取るどころか距離を詰められていく。


「caution──レーザー照射を受けています。caution──レーザー照射を受けています」

「分かってる! 少し黙ってろポンコツ! くそっ……振り切れない──」


 コクピット内部に、鳴り止まないアラート音が響き続ける。後部座席からの警告音声に苛立ちを顕にしながら機体を操っていく。



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