プロローグ sideB
──アヴェル達が襲撃されるよりも昔、彼等の惑星から空が奪われて間もない頃──
漆黒の海に無数の星が散りばめられた広大な宇宙を、一つの彗星が泳いでいた。優雅に星の海を航海するその彗星は、漂いながらある場所を目指していた。
その航路の先には、惑星が控えていた。以前は蒼く、ただひたすらに蒼かった海と空の惑星。だが今はその見る影もない。彼ら、あるいは彼女らによって灰色に染められたその星を、彼、あるいは彼女は目指していた。宙域を漂うそのほうき星は、その身を隠す隠れ蓑だ。
その彗星は、粒子の尾を引きながら灰色の惑星へと近づいて行く。そしてすれ違う間際に、彗星から剥がれ落ちた破片が落ちていく。外郭を燃やしながら大気圏を抜け、灰色の雲を突き抜けて闇色に染る海へと落ちていった。漆黒の大海原に、衝撃と波紋が広がっていく。
誰にも気付かれることなく、その波紋が水平線へと消えていった頃、破片が落ちた場所から鉄の塊がゆっくりと姿を現した。海上に現れたそれは、表面を割り、中から無数のアンテナを展開した。
『セイタイgk;ノウ……カク……ニン──』
無数に広がるアンテナから、ノイズが走り始める。そしてそのノイズは次第に言葉へと変わっていった。
『ゲンジュウセイメイタイ……の、ゲン語……収シュウ……チyou』
次第にハッキリとしてくるそのノイズは、男とも女とも分からない機械音で、人の言葉を紡ぎ始めた。
『言語、習得完了。これより目的の遂行に移行──』
役目を終えたアンテナ郡は収納され、鉄の塊は元の姿へと戻っていく。
『不具合発生。着水時の衝撃により、一部のデータが破損。バックアップより修復を実行──修復、失敗。目的の修正を実行』
その音声が鳴り終わると、鉄の塊はさらにその表面を海上に浮上させた。大きく長い胴体を持ったそれは、彼、あるいは彼女の母艦であった。そしてその長い胴体部分を大きく開き夜空に向けてカタパルトを展開した。そしてそのカタパルトからは、白い機体が打ち出されようとしていた。
『目的内容の修正完了。同種体による現惑星への進行を妨害、阻止。及び現住生命体の保護を最優先とする。目的の遂行を、開始──』
その音声の直後、夜空に向けて白い機体が打ち出された。三日月状の本体に無理やり翼を取り付けたようなその白い飛行体は、夜空に浮かぶ月のように輝きながら空を舞い、次第に雲の中へと隠れていった。それに習うように、海上に取り残された母艦はその存在を隠すように、静かに海の中へと潜り、その姿を海の奥深くへと沈めていった。
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