第1話 楽しいお遊戯の時間だ
人類の辿り着いた新天地【ルフトマーレ】
澄み渡る蒼き空と広大な海に包まれた、人類にとっての第二の母なる星。だが、今はその面影は残っていない。海から遥か上、蒼天は塵に満ちた雲に覆われその美しい蒼は閉ざされた。残されたのは、降り落ちた灰で淀んだ灰色の海のみ。
そんな灰色の海の上に一隻の艦船がいた。ある任務を遂行するために、白波を立てながら進んでいる。
✱✱✱
「広域レーダーに高熱源体を探知、距離四五〇、方位
その船の
「……よし──」
艦橋の中央に置かれた艦長席に座る女性が答え、席に常設されている受話器を取る。
「各員、第一種戦闘配置! 艦載機順次発艦」
「了解。ジプシー小隊、ガルム小隊、発艦シークエンスへ移行──」
「FCS起動、システムチェック──
その女性の一声により、艦橋は一気に慌ただしくなり、緊張感が増していく。
「ジプシー
『はい、艦長』
艦長席に座る女性ヴァネッサ・アルブライトンは、今まさに飛び立とうとしている戦闘機のパイロットに声をかける。
「後は頼むぞ──」
『
その通信が途絶えると、甲板から轟音と共に戦闘機が打ち出された。それに続くように、一機また一機と発艦していく。
✱✱✱
『先行ってるからね! ちゃんとついて来るのよ、分かった? アヴェル聞いてる? ジプシー4!』
ハンガーからリフトで甲板に上がった戦闘機のパイロットに通信が入る。フルフェイスの耳元に個別回線で、お節介な少女の声が届く。
「聞いてるよ! さっさと出ろこのノロマ女、後がつかえてんだよ」
『なっ! ほんっとに可愛くない……覚えてなさいよ……。ジプシー2、リタ・パトリシオ、発艦します──』
回線が切れ、カタパルトから火花が散り、戦闘機が打ち出される。滑走路が白煙を上げている中、射出要因の乗組員達が慌ただしく動き回っている。
『ジプシー2、ジプシー3の発艦を確認。続いてジプシー4、第二カタパルトへ──』
幾度となく繰り返してきた手順を滞りなくこなしていく。乱れることなく艦載機が灰色の空へと舞い上がる。そしてまた一機、戦闘機が甲板の上を進んでいく。
「システム再チェック、異常なし。計器チェック、正常──」
窮屈なコクピットの中で、一人の少年が黙々と手順をこなしていく。だがそこへ艦橋から声がかかる。
『ジプシー4。IAPの起動が確認できません。ヴェント准尉、再度確認を』
「ちっ──。こちらジプシー4、そちらの見間違いでは?」
アヴェルはオペレーターの要請に舌打ちをして反応を返す。通常ならこんなやり取りは無い。だが彼の場合は茶飯事だった。そして毎度、その回線に割り込みが入る。
『見間違えてるのはお前だジプシー4! 毎回毎回言わせるんじゃない! さっさと出ろ馬鹿者!』
ヴァネッサの怒気のこもった声が響き渡る。観念したアヴェルは、計器のスイッチを作動させる。
「IAP起動……起きろ、
「──音声認証、搭乗者をアヴェル・ヴェント准尉と確認。全システムアクティベート。ご指示をどうぞ准尉──」
起動から数秒で、複座型コクピットの後席に搭載されたパイロット補助装置が起動する。無機質で機械的な音声がアヴェルの返答を待っている。
「システム再チェック。フライトアシストはオフ、出力を索敵に回せ」
「准尉。その操作は非推奨とされています──」
返答から秒も経たないうちに返答がある。その返答に舌打ちしてアヴェルは反論する。
「いいからやれ、命令だ」
「──
それ以降機械音声は沈黙した。それと入れ替わるようにフルフェイスに通信が入る。
『IAP起動確認。カタパルトへの固定完了を確認、ボルテージ上昇。射出タイミングをジプシー4に譲渡』
「了解。ジプシー4、アヴェル・ヴェント、発艦する──」
ヴェントは掛け声とともに、スロットルを最大まで上げる。数秒後、アヴェル機は激しい振動を伴いながら打ち出される。揚力を得た鋼鉄の鳥は、ゆっくりと高度を上げていく。
『ようやく来たわね、早く後ろにつきなさいノロマ男』
旋回中に、またもお節介な少女の声がアヴェルのヘルメットを震わせる。
「嫌なこった。デカ尻女の後ろなんて俺はゴメンだね」
『なっ!? アンタほんとバッカじゃないの!? コクピットに入れるんだからそんなに大きい訳──』
二人のやり取りに、笑い声が乱入する。
『二人とも元気で大変結構。相変わらず仲良しだね』
「違ぇよ!」『違います!』
からかうようなロベルトの声に、息を合わせたかのように二人同時に即答する。その間に、まばらに散っていた戦闘機は、ロベルトの機体周辺に集まりつつあった。
『はいはい。えー、ジプシー1より全機へ、これより作戦行動に移る。目標、敵洋上プラントの破壊だ。高度をとって編隊を組むよ。方位三一〇』
ロベルトが打ち上げられた戦闘機全機に指示を飛ばす。そこへ海上の空母から上空へと回線が開かれる。
『親鳥から小鳥達へ、準備はいいな野郎ども。楽しいお遊戯の時間だが、楽しすぎて雲の上まで飛び出してくれるなよ? 墜ちた奴の面倒は見んからな、必ず自力で帰って来い』
その声にそれぞれが返事を返す。
空を舞う鋼鉄の鳥達は優美な列を為し、一直線に戦場へと飛び立った。
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