もし“秘密兵器”が出陣したら(一人搭乗ver)

 戦場は混乱と悲鳴に満ちていた。

 突如として降り立った、漆黒の機体に、社長候補達の配下による軍は蹂躙されていたのだ。

「何だあの機体は!?」

「次々と潰される……!」

「離れろ、正面から攻めるな!」

「そうだ、背後を取れ……! 後ろからならいける……!」

 連絡を受け、一斉に背後に回り込む社長候補の機体群。

 漆黒の機体は反転しようとするが、正面に残った機体が陽動の攻撃を始めた。



(……)

 搭乗者は正面の敵を機体両手の大剣で屠りながら、大量の視覚情報を整理し始める。

(正面には12機。その程度ならすぐに殲滅出来るんだが……)

龍野りゅうや君、組み付こうとする敵機が4機!」

 美しいソプラノの女声じょせいが、“龍野”という搭乗者に現状を指し示す。

「わーってるよ!(クソ、扱いづれえな……!)」

 障壁に割いた魔力を少しだけ、に回す。

「頼むぜ……!」



 飛びついた機体は、各々の得物を突き立てようとしていた。

「この位置ならば、効きはせずとも……!」

 張り出た箇所に飛び乗り、挙動を予測する意図があったのだろう。

 だが。

「ッ!? うわああああああッ!」

 1機が、

「おい!? がっ! や、やめ――」

 もう1機も同様に、奇襲してきた腕に握り潰される。今度は右手の腕だった。

「どうなっている!」

「わかりません、けれど腕、腕が……!」

「腕だと!? クソッ、下がれ……何だ? マントが……」

「早く離れろ……なっ! 伸び――」

 マントの布地を押しやって迫るモノ。

「がっ!?」


 それは、


 圧倒的な握力と全長30m以上のマントを通り抜けられる長さまで伸長する腕は、瞬く間に漆黒の機体の背面に取り付こうとした2機を握り屠った。



「やっと集中出来るぜ……!」

 陽動部隊を全滅させた龍野は機体を振り返らせると、急激に魔力を送り込む。

 一気に距離を取り、視界を広める。

梟の目オイレ・アオゲによれば、後方に敵はいない……! なら……!)

「龍野君、一気に片を付けて……!」

「おうとも!」

 漆黒の機体は隠した腕で、マントで隠された剣4本を1本ずつ掴む。

 そして最初から出している2本の腕と合わせ、計6本の剣の切っ先を全て正面に向けた。

「邪魔だ……。そこをどけぇえええええええッ!」


 魔力を限界まで凝縮させ、切っ先から極大の光条ビームとして6本同時に、十秒も放つ。

 軽く100機を超える機体を、たった一薙ぎで全滅させたのであった。


「第一陣はこれで終わりか……」

「そうね。けれど、まだまだ数はいるわよ」

 先ほどとは違う女声じょせいが響く。

「“彼女”を助け出す為には、これ以上の無茶をしてもらうわ。兄卑あにひ

 龍野を“兄卑”と言い放った声は、若々しいソプラノだった。

「知ってるぜ……まったくもう。一体どれだけ召喚したんだかってぇ……のッ!」

 漆黒の機体を跳躍させ、マント裏の翼状ブースターに充填した魔力を一気に噴射する。

「けどよ……もうワケのわからねえ別れは、ごめんだぜッ!」

 充填した魔力でアイバイザーを輝かせながら、漆黒の機体――エェルケーニヒ・シュヴァルツリッター――は、先ほど以上の数がいる敵機群の中に突っ込んで行った。

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