第4話 真相究明
翌日、江坂を秋葉原に呼び出したのは、叔父さんの報告が無視できないものだったからだ。江坂に伝えるべきかはかなり悩んだが、ここまでくれば最後まで付き合ってもらう事にする。
「まじっく」に入ると、叔父さんが茶菓子とお茶を用意していた。昨日とは違って事前に来ると伝えておいたからなのだろうが、ぼくの機嫌は、その程度では良くならない。江坂と叔父さんの挨拶も程々にさせて、本題に入る。
「叔父さん、昨日の話、もう一度してくれる? 江坂には、まだ何も話してないんだ」
「ああ。えっと、昨日俺が売ったメイド服から、おかしな手紙が出てきたって事は聞いた。それで、それを売りに来た奴とは知り合いだから、話を聞いてみたんだ。そしたら、そのメイド服を作った大学生は、病死したんだとよ」
隣で、江坂が息を呑んだ。ぼくは、例の不幸の手紙を取り出しながら、口を開く。
「死因は、なんだったの?」
「そこまでは、聞けなかった。けど、正樹の話を聞く限りじゃ」
「がん、かな」
ぼくは取り出した手紙を、カウンターの上に置く。
『マキ、ドウシテ。マキ、ガンデシンダノ?
マキ、ドウシテ。マキ、トウサンガタバコスッテタカラ?
マキ、ドウシテ。マキ、ドウシテ?
コレヲミタニンゲンハ、イツカイナイニコレウツシテゴニンニオクレ。
サモナケレバ、フコウガ来ル』
「不気味だな」
手紙を見た叔父さんが、呟いた。
「叔父さんは昔、こういうのが家に届いた時は全部捨ててたみたいだけど、今回は事情が違う。亡くなったマキさんが書いたのか、その友達が書いたのかは分からない。だけど、本当に死んだ人がいるなら、キツい冗談だ」
ぼくの言葉に、叔父さんが黙って頷いた。江坂は、ぼくの顔を見て黙り込んでいる。ぼくがまだ話そうしている事を察して、待っていてくれているのだろう。
「このメイド服を売りに来たのは、誰だっけ?」
「売りに来たのは一年くらい前で、ある大学の、映画撮影サークルのやつだ。亡くなった大学生、名前は聞けなかった、けど多分マキさんだろうな。そのマキさんは衣装の制作が得意で、このメイド服や他の衣装も、だいたい作っていたらしい。話したらえらく嬉しがっててよ。その衣装は元々手違いで売ってしまったものだから、買い戻したいとさ。思い出の品なんだと」
叔父さんの語ることは昨日ある程度聞いていたが、江坂に最初から伝えるため、そして、ぼく自身が情報を整理するために聞く。
「昨日見つけた、もう一枚の手紙は?」
「昨日、正樹に言われた通りに、メイド服と一緒に売られた服を探ってみたんだ。そしたら、袖のおかしな隙間から出てきやがった」
叔父さんが、カウンターの上に一枚の紙を置いた。
『親愛なるみんなへ
私の最後の贈り物を、桜の木の下に埋めました』
紙には、綺麗な黒字を縦書きにしてそう書かれている。
「これって、亡くなったマキさんが、書いたんだよね?」
江坂の言葉に、ぼくは頷く。
「普通に受け取れば、そうなるね。となると、問題は、あの不幸の手紙を書いた人間が誰なのかってこと。あの怪文書を見る限り、亡くなったのはマキさんで間違いないにしても、あれはマキさんに宛てて書かれたような内容だった」
「けどよ、その、不幸の手紙を書いたのが、マキさんじゃないとも言いきれないよな。わざと、他人が書いたようにすることもできる」
「うん。筆跡を見ても、不幸の手紙はわざと汚く書かれているけど、このマキさんが書いたはずの手紙の字と、似ていなくもない。一番最悪なのは、不幸の手紙を書いたのがマキさん本人というケースさ」
叔父さんの疑問に、ぼくなりの答えを出した。手紙の書き方など、今はどうでもいい。一番重要なのは、この手紙の内容だ。
「一番最悪って、もしかして、不幸の手紙を書いたのが、マキさん本人だとしたら」
言葉に詰まった江坂の話を、ぼくが引き継ぐ。
「マキさん本人が不幸の手紙を書いたんだとしたら、マキさんは、ずっと恨んでいたのかもしれない。分かりやすいところで言えば、タバコを吸っていた親父さんとかを。もしそうなら、マキさんが埋めた贈り物は、あんまり良いものじゃない」
叔父さんと江坂は、二人して黙り込んでしまった。ぼくは、意を決して、二人に言った。
「だから、ぼくは、贈り物がマキさんの友人や家族の手に渡る前に、贈り物の中身を改めようと思う」
ぼくの言葉に、二人は驚愕して顔を上げた。
「勝手にみるのは、まずいんじゃないか?」
「そうだよ! それに、桜の木がどこか分かるの?」
二人は、少し声を荒らげたが、ぼくの意志は揺るがない。
「確かに、叔父さんの言ってることは正しいよ。だけど、もし贈り物を見て、死人に恨まれていた事を知ったら、マキさんの家族や友人はどう思う? それに、桜の木には見当がついてるんだ。マキさんが通っていた大学の近くには、大きな、桜で有名な公園があるんだ。昨日叔父さんに聞いて調べたけど、映画撮影サークルのサイトにはそれらしい場所の写真がたくさん載ってたんだ。行けば見つけられると思う」
「分かったよ。俺はもう何も言わねぇよ。お前は昔から、頑固で面倒なんだよ。ただ、手短に済ませろよ」
「ありがとう、叔父さん」
叔父さんは呆れたように、麦茶を飲み干した。気づけば、ぼくの喉もカラカラに渇いていた。
「白石くん、わたしも、行っていいかな?」
「来たいなら、来ればいいさ」
「なら、行く」
ぼくは麦茶を飲み干して、立ち上がる。
「今から行くから、支度して再集合だ。汗をかくから、着替えとバスセットを忘れないようにな。スコップは、ぼくが持っていく」
江坂が、力強く頷いた。視界の隅で、叔父さんが肩をすくめているのが見えた。
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