実行

予定の時間になる頃には多くのごろつき達が集まっていた。

銃を持つ者、刃物を持つ者。少なくとも、僕は今までこんな奴ら見たことがない。皆、それぞれ奇抜な格好をしていて、普通の長袖の服なのになぜか袖がなかったり、やたらズボンを上に履いたりしている。彼らにとってこの見た目がかっこいいものなのだろうか…。僕にはただの古臭いファッションにしか見えない。

「アダム!」

その中に女の声で僕を呼ぶ声が聞こえた。

「君は…確かセレッサだっけ?」

面倒臭いのが来た。そもそもなぜ僕の名前を知っている。僕は名乗った覚えがない。

「そう セレッサ そんなことより…早く帰ろう ここにいたら 巻き込まれる」

「巻き込まれる?何にだ?」

「上の世界でテロをしようとしてる者達と 貴方は "違う" そっち側じゃない」

「僕は自分の意思でここにいるんだ。かまわないでくれ」

「アダムまた忠告破る さっき痛い目みた やめたほうがいい 取り返しのつかないこと 起こる」

まて、さっき痛い目みた?

この言い方だと…

「まさか、僕をわざと一度上へあげたのか…」

「……」

彼女は深く俯く。無言を貫くのか?それともメカニカだから処理機能でも作動しているのか?

彼女が答えるまでは数秒のラグがあった。

「そう 貴方をわざと上げた 現実をみてもらうため ベリルに回収してもらう予定だった でも予定狂った」

回収…だと…。それに、まんまと踊らされていた事が悔しい。

「ああ、回収…ね。僕は確かにモノだ。けど、他のメカニカと違ってどうやら僕にはココロがあるらしい。今だって、君に踊らされていたことを悔しいと感じたよ。だから、僕は自分の意思で行動する。指図なんかさせない。このままじゃ僕の怒りが収まらないんだ」

セレッサはもう一度深く俯く。

「アダムもそう言ってることだ。邪魔だからあっちいってくれないか?セレッサ。」

突然僕らの会話に割り込んできたのはベリルだった。

そして、彼が来た途端にがやがやしていた周りの声が一気に静かになる。怒られた子どものように大人しい。どうやら彼がこのグループのリーダーのようだ。

「せっかく子猫が山猫にレベルアップするってところだ。邪魔しないで欲しいんだが…。」

彼の口調には底知れない威圧がある。流石これだけの人数をまとめる力があるといっていい。

人数的にも不利になったセレッサは僕に「何かあったら…行く」とだけ言って去っていった。来られても余計なお世話だ。彼女は僕の保護者なんかじゃない。

「よーし。人数も揃ったな。それじぁ、ひと暴れするか!」

そう言ってベリルは右手に持っていた銃を空に一発打ち上げた。

その空砲の音は勇ましい銃の形とは真逆でどこか寂しげな音を鳴らす。まるでこれから起こる悲劇を悲しんでいるようだった。


ベリルの合図と同時に男達は上の世界へ駆け上がった。

この通路が続く道の先にあるのはニューヨーク。世界の最先端の場所であり、ルイスの居場所でもある。そして僕がはじき出された場所。

ベリルに促され、僕も町へ向かった。


町に着くと既に大規模なテロは既に始まっていて、爆発音や発砲音。そして多くの人間の泣き叫ぶ声が聞こえた。

光景はあの卒業式のテロと一緒。人の命が桜の花びらのように散ってゆく。風が強く吹くごとにヒラリヒラリと散ってゆく。この散りどきが美しい。

ざまぁみろ。

思わずそう思ってしまった。

僕を捕まえた警察、僕のことを嗤った奴らが地面に転がっている無残な姿をみて気分が少しよくなった。

それでも地面に落ち、人に踏まれてすっかり壊れてしまった桜の花びらみて、それ以上気分がよくなることなんてなかった。

僕は最低だ。

人任せにして、自分だけ罪を逃れようとしている。

ふと周りをみると山のような死体がつみかさなっていた。

現実。

町一面が死体の海になっていた。

この数分で何人死んだ?

僕の復讐相手以外の人は何人死んだ?

関係の無い人達は何人死んだ?

僕は本当にこれを望んだのか?

桜は散りどきが美しい?そんなことはない。一番美しいのは満開の時だ。

考える間もなく、銃声は絶えず響く。命の光が消えていく。

ふと、耳が痛んだ。それも、ピアスをしている方の耳が。教えてくれているのか?こんなことは違うと。


僕はこの虐殺の中心であるベリルが僕が卒業した学校にいることを突き止め、学校へと走っていた。

殺すためなんかじゃない。止めるために。

正門は固く閉ざされていた。

けれど僕は裏道をしっている。かつてルイスと一緒によく通った道だ。裏庭園に繋がっている道で、学校に遅刻した時にはこの道を使っていた。

裏道を駆け抜ける。かつての記憶が蘇る。

先生にイタズラしたこと、授業を2人でサボったこと、お互いの秘密を共有したこと。

考えれば考えるだけたくさん思い出が浮かぶ。

この思い出を守るためにもこの争いを止めたければ。


緑のトンネルを抜け、僕は裏庭園に駆け込んだ。校舎までの道はあと少し。僕はそのままノンストップ駆けぬけようとした。


パンっ!


突然銃声が鳴り響いた。

ふと右を見ると、銃口は僕に向いている。フードを被った人。顔もわからない。

全てがスローモーションに見える。もうじき僕にも痛みがくるはずだ。

きっと、神様の罰なのだろう。

しかし、感じるはずの痛みは訪れない。そのかわりに体が誰かに押し倒されている感覚があった。

目の前に飛び散るのは…血…?


その血は僕をかばって撃たれたルイスの血だった。

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