下降 3

ロウソクの火が落ちついた熱を発している。メラメラ燃える火の向こうに見えるあなたはユラユラ揺れている。ロウが落ちるからと歌は後回しにして、いつもは吐くことのない種類の息を吐く。あなたが歌う。あなたの歌はいつも感情だけが先走っていて上手ではないが、やはりその声は僕を安心させた。

あなたは仕事をしていない。僕はあなたの働く姿が好きだった。そうだった、僕はあなたの働く姿に惚れたんだった。思い出してもそこまで感動もないけれど、僕の心は一気に幸福感でいっぱいになった。

僕は嫉妬深かった。あなたが僕ではない誰かと話している時間があると、僕の存在があなたの頭の中から消えてしまう気がするのだった。あなたが仕事をしていないのはそのためだ。仕事にすら嫉妬してしまうような僕の極端な性格にあなたは背筋を伸ばしながら寄り添ってくれる。そんなことを考えていると、突然水の中に入ったかのように視界が狭くなって、またあなたはユラユラ揺れた。気づくと僕は泣いていた。


また下りていく。

またふと無意識的に出そうになった溜息を

無理やり飲み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る