下降 2

あなたには夢があった。色んな夢があった。叶えた夢と叶えられなかった夢。きっと今ではそんなものはどうでもよくなってしまったのだろう。あなたは魅力的ではなくなってしまった。あなたは自分の人生をどこかで終わらせてしまったんだと思う。その決意は偉大だ。僕は、まだ、しがみついている。

インターホンが鳴る。誰もいないのに。またインターホンが鳴る。仕方なく僕はカギをカバンから取り出してドアを開け、まだインターホンの寂しい余韻が居座っている部屋に入った。その瞬間だった。

「ワッ!!」

と大きな声を出しながらあなたが僕の前に飛び出してきた。あなたは、僕が驚かされることに弱いことを知っていて何十年も揶揄い続けてくる。内心イラッとしつつも、いつまでも無邪気なあなたが愛しくなり抱きしめる。やはり魅力的ではないが、ちゃんと愛しているんだと実感する。身体が離れる。こんな日常が地面を踏みしめて歩くようにしっかりと過ぎていくことで、時の流れだけは実感できない。幸せに時間という概念はないのだろうか。と、限られた時間で考えている。またあなたを抱きしめたくなったが、今になって照れくさくなったので見つめ返すだけにしておいた。


見えない底へ向かって、また、下りていく。

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