第4話 天国から地獄へ
月曜日の朝はとても眠い。日曜日に昼まで寝てしまった事によりその夜は中々眠ることが出来ず、結果寝不足になる。それを分かっている上で毎週のように繰り返すのだから馬鹿なものだ。きっと、俺だけに関わらず学生全体に言えるものではあるが。
「潦人おはよ! 面接どうだった~?」
朝から蒼汰はいつも元気である。どうして昨日部活した後にこれだけ元気でいられるのか分からない。
「俺が落ちるわけないだろ! ミスターコンの書類選考も通ったしな!」
グハハハと俺は笑う。しかし、昨日夢ちゃんと遊んだ事は言わない。いろんなことを蒼汰は敏感に察知し感づくためにまだ言えない。
「それなら良かった良かった。ずっと拗ねられたらめんどくさかったし」
「まあこんな所で落ちる俺じゃないけどな!」
「落ちたらどうしよ~って言ってた時の録音撮っておけばよかった」
「残念だったな~」
「こっちは昨日の練習試合でズタボロにされてまだ引きずってるのにさ~」
蒼汰は口を少しうなだれながらそう言った。
「あーそういえば練習試合するとか言ってたな」
「夏の大会が近いっていうのにどうすればいいんだか」
「練習するしかない」
「いや、そうなんやけどさ」
今更になって蒼汰に自慢ばかり偉そうにしてしまった事に少しながら反省している。何か最近そうゆう反省多いな。夢ちゃんの時と言い。
「先輩は最後やもんな」
「そうそう、やっぱり1試合で多くな」
「俺も自分のためにバイト1日でも多く続けな」
「自分のためかい! あ、そうや! 4限の数学ってテストあるよな?」
「……」
テスト⁈ それって美味しいの? レベルで忘れていた。今日の昼休みは教科書君とにらめっこをしなければいけないらしい。
「それはお疲れ様やな。暇してたら教えてあげるわ」
「蒼汰さんあざっすーーーー」
こうして手応えのないテストを終え、授業を終え、初バイトへ向かう。眠気も今となっては緊張のせいもあり全くない。
思いのほかみんな優しく接してくれ、いろいろと教えてくれた。4時間ほど働いたが一瞬だった。集中して頑張るとここまで時間の流れが速いとは。部活をしていたころには味わったことはなかった。やはり、人間やらなければならないってなった時には真剣にできるものだなとしみじみ感じた。
この1週間はとても充実はしたもののとても疲れた。そして明日は夢ちゃんとのデートである。
さあ、勝負の朝が来た。年に1度タンスから出て来るかどうかの勝負服を着こなし、ワックスで髪の毛を盛り、あらゆる角度から鏡で見て納得できた末に家を出る。ここまでに30分かかる。蒼汰から「30分は長すぎ」と散々言われてきたが、かかるものは仕方がない。
待ち合わせはちょうど俺がバイトに行っているマックのある駅前にしている。5分前には着きそうだ。着いて周りを見るも彼女の姿はまだ見えない。
待ち合わせ時間を5分過ぎ彼女はやってきた。
「遅れてごめーん」
「ほんと2時間待ったよー」
「マジ?」
「いいや、全然今来たとこ」
「うっわ、大ウソつきや」
「実は俺、人じゃなくて天狗なんよ」
「しょーもない上にまだ嘘重ねるか」
「まあ自分には正直やけどな」
「何か上手くまとめたみたいな空気出してるけど、かっこよくないからね」
こんな風にずっとツンツンしている。でもいじめたくなるのが彼女に魅力の1つなのだろう。
ユニバにつくやいなや入口にたくさんの人が並んでいた。さすが日曜日。ウィンガーディアムレビオーサで少しくらいは人が減ってくれないだろうか。ハリーポッターを見たことがないのでこの呪文に何の意味があるのかは知らない。
入場ゲートを通ると駆け足でどこかへ行く人、いきなり写真を撮り始めている人など様々である。
「とりあえずフライングダイナソー乗ろうよ」
夢ちゃんは悪魔的な笑顔でそう言ってきた。どうやら彼女スリル系が好きらしい。
「いきなりハードやな……」
「絶叫系無理な人?」
「いいや、全然! 余裕だし!」
「じゃあ、行こ!」
夢ちゃんはササッとフライングダイナソーへ向かおうとし、俺は彼女の背中を追いかける。
「この時間に来てもいっぱい日と並んでるね~」
「朝の時点でここまでとは俺も見くびってたな」
「まあいいや、並んじゃおっと」
黙って俺も一緒に並ぶ。しかし、この列の長さとなると30分くらいはかかりそうだ。よく遊園地に来たカップルは別れたりするなど言ったりするが、まだ付き合ってもいない女の子と遊園地、ましてや、日本でも1.2を争う人の多さであるUSJである。会話が持たなければ待ち時間の長さんじょ苛立ちで険悪な空気になってしまう可能性もあり、正直不安で仕方がない。
2時間ぐらい会話を持たすことはできるだろう。しかし、ここでは2時間しか会話する時間がないということはまずない。今更不安になろうとも時はすでに遅いのだが。
「今日も暑いな」
「まだまだこれからやろ~」
「8月が恐ろしいな~」
そんなたわいもない会話で案外時間は過ぎていく。また、正直お互いのことをよく知っていなかったため話題が尽きることはなかった。
気が付けば、乗り物も5個ほど乗れており時刻は15時になろうとしている。
「潦人君は彼女いないんでしょ?」
「もちろん! いたらこうして夢ちゃんと遊んでないし」
「まあ、いたらドン引きやしな~」
「かれこれ4年くらいいないな~」
「へぇ~。意外~」
「ちゃんと人を好きになれないからさ。それなら遊ぶだけでもいいかなって思う自分がいるし」
実際に今もいないとは言っていない。彼女には今の気持ちを気づかれないようにとポーカーフェイスを頑張っているつもりである。
「私ももう2度と好きな人できそうにないな~」
彼女は笑いながらそう言う。
「あー。逃げられたし?」
「いちいち口に出すな!」
結構強めのパンチを肩に入れてきた。本当はとても痛いところにあったたが、弱い所を見せたくはない。だから、無理して背筋を張り彼女の方を見る。
「全然痛くないし~」
「その顔で言われてもな~」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「もうおろしたん?」
「うん」
「逃げたやつになんか文句言ったり、殴ったりしたらいいのに」
「会いたくないもん」
「でた~。女子のそうゆうやつ。なんなら俺が代わりに殴ってあげよか?」
「必要ないって。あと多分負けるよ」
「それはやめておこう」
もちろん元から冗談でしか言ってなかったがそんなに強い男とは……。
「結構疲れたな~」
時刻は20時。立っている時間が長い分かなり腰に来ている。また明日から1週間学校とバイトが続くとなるとしんどい気持ちになる。
「そろそろ帰ろっか」
夢ちゃんからそう言ってきた。俺がそろそろしんどいなと思っていたのを察知していたのだとすればすごい女の子だ。
「やな」
そうして1時間ほどガタンゴトンと電車に揺られ、待ち合わせをした場所へと戻ってくる。
「今日はありがとう!」
「こちらこそ~。楽しかったよ」
夢ちゃんは楽しかったと言ってくれた。俺はその言葉にひと安心する。
「何かまた悩み事とかあったら今度は俺に相談してよ! 河川敷に1人でいるんじゃなくてさ!」
「考えとく~」
「バイバイ!」
「バイバイ!」
こうして彼女と別れ、俺は彼女と反対方向に歩いて行く。彼女はまた1人で抱え込んだりしないだろうか。しかし、彼女は強い女の子である。だから、俺は必要ないのかもしれない。でも、俺は彼女が悩んでいるのならば、泣いているのならば、そばにいたい。俺が助けたい。もっと言えば彼女が楽しくしている時もその隣は俺でありたい。強欲かもしれない。それでも初めて自分が1人の人間を好きだと思えた。これを恋したというのだろう。
そうして、俺が振り向き彼女を見た時には……。彼女は横から走ってきたトラックに轢かれていた。
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