第3話 偶然

 今日は帰りにスーパーに寄り買い物しなければいけない。こう見えても料理は得意だ。実は将来、料理屋をしようかと思っていたりする。最近のマイブームの1つ。それは食戟のソーマに出てくる料理を模倣することだ。だから今日はカレー粉やジャガイモや生クリームなどを購入し、白のポタージュカレーうどんを作ろうと思う。ちなみに食戟のソーマの模倣料理は女の子に食べさせると結構ウケがいい。

自宅へ帰り颯爽と料理を始め、すかさず写真を撮りそのままインスタへアップする。

 そこからラインを開き、夢ちゃんに「元気にしてる~?」と送ってみた。まるで長いこと会わなかった人に連絡するかのような文面だが、まあいい。

 30分程して帰ってきたラインはウサギがグッドポーズしているスタンプだった。どうやらまだ完全に心は開いてくれていないらしい。それもそうか。そこから返信はしなかった。


 時は2日ほどたった。今日は日曜日で特にすることもなかったため12時まで寝てしまった。起きて間もないころ1件見覚えのない電話番号から電話がかかってきた。一瞬、夢ちゃんからの電話かと思ったが電話番号も教えていなければ、掛けてくるとするならラインで電話してくるはずだし、ますます誰かわからない。

 電話をしてきたのはマックだった。あーそういえば2日前に面接していた。どうやら合格らしい。明日からバイトに入ることに決定となり少し今から緊張してきた。

 そこから5分後、また見覚えのない番号から電話がかかってきた。1日知らない番号から2回もかかってくることは早々ない。恐る恐る電話に出てみるとミスターコンについての話で再来週の月曜日の18時に面接へ来てほしいというものだった。ラッキーなことに面接会場は一駅行ったところで30分とかからない場所だった。書類選考通った~。とりあえず安心安心。

 それにしても今日はすることがない。何か予定でも入れておけばよかった。とりあえず、返せていなかったラインを返し、ふと目に入ってきた夢ちゃんとのトークを開く。そして気が付いた時には「来週どっか遊びに行かない?」と打っていた。いつもならここで躊躇うことなく送信していただろう。でも今は違う。送信ボタンになかなか指が届かない。どうしたんだ俺! と思うが打てない。大きく息を吐きラインを閉じ寝転がる。

 どうしたものか。というかなぜだ。まさかとは思うがビビっているのか……。でもなんで俺がビビる必要がある? あー訳がわからなくなってきた。ちょっと出かけよう。本屋に行こう。ちょうど今月出た漫画の新刊買いに行きたかったし。そう決めた俺はササッと準備し家を出た。

 家から近い大垣書店へ行き新刊コーナーの食戟のソーマとハイキューを手に取る。ついでにバイト関係の本があるかな~と探してみる。見たことのある人影が参考書のところに……。あれはおそらく夢ちゃんである。話しかけるべきか否か……。

「今日は河川敷じゃないんだ」

 結局話しかけると、彼女はすごい目を見開いて俺との距離をとった。

「え、何、ストーカー?」

「違うわ! マンガ買いに来たら夢ちゃんいるから、話しかけただけやって」

「怖」

「だから。違うって! そんな俺がこそこそ後付けたりするような奴に見える?」

「まあいきなり話しかけてくるからな~いつも」

「やろ⁈」

「いや、そこ威張れるとこじゃないし」

「今日さー、暇で暇でとりあえず暇なんよー。だから今からどっかでカフェでも行かない? 奢るしさ」

「今から? まあ特に予定ないからいいけど」

 いざ彼女に話しかけるとすんなり言葉が出てきてカフェに誘っていた。これは今までの経験の賜物でもあるのだろう。

「よっしゃ! じゃあ、本買ってくるしちょっと待ってて」

「はいはい」

 本屋を出ると真夏の日差しが強く咄嗟に腕で太陽を隠すほどだった。

「夢ちゃんは家どのあたり?」

「この本屋と河川敷の間くらいかな」

「おけー。なら河川敷近くのドトールでいい?」

「いいよ~」

 彼女とまだ数回しか会っていないにも関わらずここまで良い雰囲気で話せるようになるとは正直思ってはいなかった。初めて会った時があのような形であったのに。


 彼女からアイスカフェラテを頼まれたので自分のアイスコーヒーとまとめて注文した。

「ほいよ」

 彼女の前にカフェラテを置き、自分はアイスコーヒーにシロップを入れる。

「シロップ入れないと飲めないの~? 子供だな~」

「カフェラテに言われる筋合いはないわ」

「私は何もいれずブラックが飲める上でカフェラテ飲んでんの」

 やっぱりこの子は気が強い。出会った時からそうだけど気が強い。

「部活とか何かしてんの?」

「今はしてない。前はバスケしてたけど」

「おーバスケか。似合うなー」

 ガンガン体に当たったりするスポーツだからだろうか、バスケ少女はみんな気が強い気がする。

「それは褒め言葉?」

「もちろん!」

「怪し」

 本当は結構な皮肉が混ざっているが口が裂けても言えない。

 そこからしばらくの間会話した。時には会話が途切れ互いにスマホを見ている時間もあったが何だかんだ会話がまた続いた。

「来週の日曜さ、どっか遊びに行かん?」

「すごい口説きに来るな~」

「別にそんな気持ちないって! ちょっとしか」

「いや、あるんかい!」

「嘘嘘。正直さ、なんて言うんかな……」

「え、いきなり告白するつもり?」

「だから違うって!」

 彼女は1人とても笑っている。何がおもしろいのか俺には全然わからない。

「いい意味で、夢ちゃんといると気使わなくて済むっていうか、自然体でいられるからさ」

「あ、それはどうも。でもごめんなさい」

「だから告白してないっつーの」

 初めて今自分が彼女について口に出した事で、そして今2人して笑っているこの雰囲気からスッと脳裏に浮かぶ。俺はやっぱり彼女の事が好きなのだと。

「それでどこ行くの?」

「ユニバとかどう?」

「ユニバ⁈ また人の多いときに」

「3年ぐらい行ってないし、行きたいな~って思っててさ」

「まあ、年パス持ってるからいいよ」

「じゃあ、決定! また細かいことはラインで言うわ~」

「はーい」

 そんなこんなで1時間ちょっとくらいなんでもない会話をした後彼女とは別れ自宅へと帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る