第2話 知る事実

 そして次の日の学校にて

「おはよ」

「結局、昨日の面接どうやった~?」

「あー今日改めて行くことになった」

「そっか、まあ、潦人の外面だけは一流だし受かるとは思ってるけど」

 皮肉なのか何なのか蒼汰は笑いながらそう言ってきた。しかし、その笑いに悪意が感じられず、ほんとこいつの性格の良さにつくづくすごいと思わせられる。

「やっぱり俺って顔面偏差値高いよな?」

「自分で言うなよ! まあ70くらいあると思うけど」

「だよな、俺もそう思う。なのにだ、ブス呼ばわりしてきた女……。あ、名前聞くの忘れた!」

 俺が女の子と接して名前も聞かないことなど今までなかった。宿題の提出を忘れることや友達と遊ぶ約束を忘れる事はあっても女の子に名前を聞き忘れることはなかったのだ。

「まあ、たまにはそうゆうこと言ってくる女の子がいてもいいじゃん。あ、そんな気にしてるならアレにでも出てみたら?」

「アレってなんだよ」

「高校生ミスターコン」

「そんなのあるのか」

「ここで、良いところまでいけばイケメンの証明になるっていう」

「なるほど……。いいなそれ。一次選考から落とされたら俺のメンタル大変だけど」

「だって自信あるんだろ? なら大丈夫ちがう? 落ちても責任はとらんけど」

「よし帰ったらエントリーしよっと。まず、バイトの面接やな~」

「俺は今日も部活やな~」

 今日は睡魔という怪物がやってこなかったため比較的授業も理解し、無事6限を終えた。なぜか一日中シャキッとしていて、コンディション万全の状態でバイトの面接を迎えることが出来た。


 マックでの面接を終えた俺は昨日と同じように河川敷のところを通って帰る。昨日の女の子がどこかにいないかキョロキョロと探す。すれ違った人から見たら若干怪しい人物にも思えただろう。そんな中、例の女の子を見つけ足を止める。そこからゆっくり近づき、さぞ当たり前のように隣に座る。

「よお! また会ったな」

「何で隣に座ってるわけ」

「偶然また見かけたからさ~。そうだ、名前教えてよ」

「ほんと図々しいな~。いやだよ」

「あ、俺は滝川潦人ね。高2。よろしく!」

「いや、聞いてないし。金崎夢。高2……」

「教えてくれるんかい! ツンデレ把握」

「うるさい、ほんと何で隣にいるかね……」

 彼女は呆れたように言う。

「今日は昨日より話してくれるんだ」

「だって、無視しても話しかけてくるし」

「間違いない!」

「まあ後、1日たって自分の中で整理がついた部分もあるし」

「やっぱり、何かあったんだ」

「何か文句でも?」

「いいや。ただちょっとくらいは相談に乗れればなと」

「聞く覚悟はお持ちで?」

「OK! どんと来い!」

「実はさ、妊娠したんだー」

「へぇ⁈」

「言葉になってないじゃん」

 彼女の口から出た言葉はまさかの「妊娠した」だった。そんな一大ニュースにも関わらず彼女は俺の反応を見て笑っている。初めて見た彼女の笑顔をまさかこのような形で見ることになるとは考えもしなかった。

「マジ?」

「大マジ」

「どうすんの」

「んー。おろすかな。彼氏にも逃げられたし。明日には病院行こうと思ってる」

「マジ?」

「いやだから! マジって何回も言ってますけど~」

「マジなんか~。そうか……」

 ただただ空を見つめる。それしかできないくらい正直驚いている。まじで。

「覚悟してって言ったのに」

「甘く見てたぜ。昨日知ったん?」

「知ったのは一昨日」

「今更やけどさ……。昨日はすまなかった!」

 俺はその場で土下座する。彼女はクスッと笑った。

「まあいいよ」

「親とかには?」

「言ってない」

「だよな~」

「お金は?」

「ずっと貯めてたバイト代でなんとか。」

「そっか……」

「でも、もう考えても変わらないしね。逃げられたし……」

「強いな。俺より全然強いよ。俺には何かあったとかいうわけじゃないけど、今の何もない日常を変えようとしていない。でも夢ちゃんは進もうとしてる。やっぱり強いよ」

「口説きに来てる? 弱ってる女なら簡単に落とせると思ってる? きも」

「おい! 俺のイメージひどすぎやろ!」

 うっすらと見えてきた彼女の明るさは元々のモノなのか、無理やり明るくしようとしているのか俺には分からない。だから彼女のことを知りたいと思い始めているのかもしれない。

 俺は両手を後ろにつきながら空を眺めそんなことを思う。彼女はこっちを見ることをせず川の流れをずっと見ている。

 そして、昨日同様に沈黙がしばし流れる。

「ライン教えてくれない?」

 ここで連絡先を聞かなかったら次会うことはないかもしれない。もちろん、今までに流れからしたら断われる可能性は高いが……。

「んー。まいっか。いいよ。妊娠の話までしちゃったくらいだし。誰にも言わないでよ」

「おー。ありがとう! さすがに俺もそんなに悪じゃない」

 なぜそんな風に見られているのか全く覚えはないが、最初のブス呼ばわりしてきた時とは違い、俺の顔には笑みがこぼれていた。

「また連絡するわ~」

「いや、して来なくていいって」

「まあそんなこと言われてするけどね」

「はぁ」

「んじゃ、バイバイ~」

「バイバイ」

 おーなんと俺が振った手を彼女が振り返してくれた! これは大きい進歩だ。そんなことを思いながら立ち上がり、しばらく川が右手に続く中1人帰る。

 今日見た川の流れは昨日見た川の流れとは違い少し荒れているように見えた。

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