川の流れのように
@puuumaru
第1話 出会い
ふと、目を覚ますと横で女の子が寝ている。高校2年生ながら1人暮らししていることを良いことに暇があれば、家に女の子を連れ込んでいる。
「ん~~、潦人くんおはよ」
「おはよう……。まだ居たんだ」
「ひどい、私とは遊んだだけ?」
「うん」
「もういい」
そう言って彼女は出て言った。正直、このような場面は何度も経験している。元から彼女と付き合うつもりはなかった。可愛かったから遊んだというだけで。
すぐに飽きる性格だと言ってしまえば簡単だ。中学1年の頃、入部したテニス部は思っていたより遥かにランニングなどのトレーニングが多く退部した。高校の時も一緒だ。バレー部に入学するも顧問が厳しく嫌になって辞めた。
自分で自覚はしている。決して何か1つに対して全力で好きになれない人間だと。その上で俺、滝川潦人はそういう人間なんだと思いながら、制服の掛かったハンガーをタンスから取り出し、着替え学校へ向かう。
「あー。眠い。」
もう、昼休みの時間というのに欠伸が止まらない。左手で頭を支えながら、購買で買った卵サンドとツナサンド、そして焼きそばパンを食べる。俺は今から更なる睡魔と戦うことは間違いない。ちなみに絶賛全敗中である。
「またそんな口開けた顔して、お前は鯉か。どうせ女の子と遊んでいたんだろ?」
「正解! 正解したから眠気覚ましに何か面白いことして」
「えーじゃあ、ありったけの感情を込めて商品紹介……」
「パクリじゃねーか! はい、もう1回」
「できるか! 女の子の1人でも紹介してから言え!」
「どうせ紹介したって部活部活部活~~って言うじゃん」
「まあ、そうだけど」
こいつはバスケ部主将、新垣蒼汰。俺とはうって変わって真面目。クラスでも5番以内の成績をとっている。中学の時からの友達で、蒼汰のおかげで俺の成績が首の皮一枚繋がっていると言っても過言ではない。
「いいよなー。蒼汰には夢中になれるモノがあって」
「逆に何でそんなに潦人は部活始めても続かないのだか」
蒼汰はヤレヤレといったように首を少し傾ける。
「だって楽しいとも思わない部活を続ける意味ってある? 別にお金がもらえるわけでもないのに」
「じゃあ、バイトすればいいじゃん」
「まあそうなんだけどさ……」
「駅前のコンビニとか、マックとか、募集かけてたと思うし面接行ってみたら?」
「そうだな。今日にでも面接してもらえるか聞きに行ってみるか」
6時間目終了のチャイムと共に担任の先生が教室に入り、すぐに終礼が始まる。
先生の連絡を聞きつつ、すぐに帰れる準備をする。帰宅部であるため時間は余るほどあるが、のんびり帰り支度をするといった無駄な時間は大嫌いである。
「それじゃ今からマックの面接行ってくるわ」
「おう! いってら」
終礼も終わり蒼汰と一言交わし、教室を出て行く。駅前のマックまでは約20分歩いたところにある。運動不足の俺にはちょうど良いかもしれない。
今は7月であるため半袖と言えども暑い。ましてや20分も歩くとなれば汗をかくことは必至である。
「あー。やばい。着くときにはもう汗臭いな。汗ふくやつ持ってくればよかったな」
そんなことを言ってもどうしようもないので、もう気にせずに向かう。
マックの前に着いたときは少し顔に汗が垂れていたので急いで何とか持ってたタオルで汗を拭く。
マックに入店し、店長さんらしき人にバイトの面接をしてほしいと伝えると、今日は出来ないから明日また改めて来てくれとのことなので、明日出直すことにし今日はこのまま帰ることにした。
このマックから家に帰るまでの間に河川敷がある。右手に流れる川はいつ見ても同じように見える。それもそうだろう。川が突然逆に流れ出したりすることはない。毎日同じように流れている。それはまるで、今の自分が生きる時間の流れを表しているように思えた。
そんな河川敷に1人の女の子が携帯を触るわけでもなく、本を読むわけでもなくポツン川を眺めながら座っている。年齢は俺と同じといったところだろうか。いつものようについ俺は声をかけようと彼女に近づく。
「こんなところでな~にしてんの?」
「何、話しかけてこないで。河川敷に1人でいる女の子を心配する俺カッケーとでも思ってるわけ? そうゆうのうざい。どっか行けブス」
「ちょっと君~。初対面だよね?」
俺は初対面で暴言を吐かれたことよりも、一度もこっちを向いていないのに「ブス」と言ってきたことにイラッと来ている。正直自分のルックスには自信がある。
「だから何」
「もうちょっと優しい言葉遣いでも良いと思うけどな~。それと1回くらいこっち向いてよ。顔には結構自信のある方だからさ」
まだ俺は笑顔で話しかける。もちろん心は笑っていない。
そういって彼女は初めてこっちを見た。それと同時に俺も彼女の顔を真正面からしっかり見る。さっき暴言を吐いてきた女の子とは思えないほどに清楚な顔立ちをしていた。
「自分のことをイケメンだと思っているところあたりがブス」
「かわいい顔してそんなこと言わないでよ」
「早くどっか行ってくれない?」
これ以上彼女に言葉をかけても煙たがられるだろうと察した俺はそのまま彼女の横に座りこむことにした。別に彼女も俺が横に座ったことについて何も言ってくる気配はない。だから、俺も黙って左ポケットからスマホを取り出し、ツイッターを開く。
そこから15分がたっただろうか。
「何でまだいるわけ?」
「ん~。別にすることもないからなぁ~。うん、特に理由はない」
「……」
そこからまた沈黙の時が流れた。ちょうどその時見たニュースアプリの記事には大谷2ランホームランと書いてあった。マジ大谷ハンパない。そしてスマホをしまう。
「んで、何でこんなところで1人いるわけ」
とりあえず俺は話しかける前から気になっていたことについて聞いてみた。
「しつこいな~」
「まあ言いたくないなら言わなくていいけど」
「言わないって」
「そっか~。それじゃそろそろ俺帰るわ」
「さよならぁ~」
「何か言い方腹立つな」
「……」
表情は初め見た時と変わっていないが、彼女はどこか少し笑ってくれた気がする。気のせいの可能性もあるけど。もちろん、彼女との出会いが俺の人生を大きく変えるものになるとは、まだ知るよしもない。
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