第18話 動揺
「おい、ちゃんと答えろ。どうなんだ?」
「 ............ 。」
優志さんが眉間にしわを寄せて、苛立ちが隠しきれていない様子を見ても、私は答えない。
「そんなに答えたくないなら、悠介にでも連絡を取って...。」
「答えます!答えますからやめてください!」
優志さんのその言葉に形勢は逆転。何がなんでも、それがバレて心配されたり手間をかけさせてしまう結果になることだけは防がなければいけないのだから。
私が問い詰められる時間が今、始まってしまった。
「さっきの答えは?」
「そうです。」
「具体的には?」
「ああいう感じで何か言ってくるときもあるし、足を引っ掛けられたりもあります。」
顔が見れない、自分の膝を見つめることだけで精一杯だ。優志さんは今、どんな顔をしていて、どんな感情を抱いているのだろうか。
失望?嫌悪?同情?それとも怒り?
「わかった。」
その言葉に思考が中断される。解放、されるのだろうか。もし許されるのであれば、今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。
「なにか、怪我とかは大丈夫か?俺でよければ、手当てはするが...。」
「大丈夫です。ほとんど転ばないですし、あっても小さいもので手当てしていただくようなものでもないので。」
そう思いきり言うと、勢い余って顔を上げてしまった。そこにあったのは、思わず息をのむほど真剣な表情だった。
ついその表情に気圧されてしまう。自分のことで誰かが考えているなんて、思ってもみなかったから。
「それならいい。本当に些細なことでいいから、何かあれば言ってくれ。必要があれば悠介を止めることだってできるし、助けにも行けるかもしれない。」
それに黙って頷く。どうせ助けてくれない、嘘だ、なんて思っていた自分が恥ずかしい。自分に悪意を向けない人だっていることを十分に悠介さんや椿さんたちで知っていたはずなのに、またそうなんだと決めつけていた。
これは、とてつもなく悪い癖だ。
丁寧にお礼を言ってから、その部屋を後にする。
帰ってから少し声はかけられたけど、本当に優志さんの家に行ったこと以外悠介さんの耳には届いていなくて、優志さんには感謝をしてもし足りない。
その後、特に目立ったこともなく日は過ぎていき、いつの間にかテストの日に。初めての先生だからとても不安だったけれど、登坂さんが毎日お願いもしていないのに教えてきてくれて、そのお陰でなんとか私基準である程度取れたような気がする。もし悪い点だったとしても、私に時間を割いてくれたお礼として何かをあげるつもりだ。
もう日は経ったが優志さんが助けてくれた、ということとテストが終わった開放感が相まって、学校だというのに目に見えて気分が上がっていた。
次は学級活動だからと自分の席に戻ると、テストで何も入っていないはずの机の中に、小さなメモが入っている。人に見られるのがよくない回している紙などで会うと困るので、宛名が書いてあったりはしないかとおそるおそる上から見ていくと、きちんとある名前が書かれていた。
「ちゃんと来てくれたんだね。」
私を呼び出した本人、昨日倒れた原因の人物、赤城さんが、なぜだか悲しそうな、そんな表情を見せる。放課後すぐ、裏門を出てすぐのところ。人の目はあるけれど、聞こえない。そこで、彼女は待っていた。
「待たせてしまってすみません。」
私はそう言って頭を下げる。なんのために来させられたのか見当もつかないから、せめて少しでもエスカレートしないように。
「いいよ、全然。水澤さん、」
一体何をするつもりなのか。そして彼女は、
「──本当に、ごめん!」
頭を下げた。
「いきなりこんな謝られても困惑すると思う。けど、マサ兄ちゃんに叱られて、倒れたのはいじめられたストレスだって聞いて、これまでにもたくさん辛いことがあったって聞いた。私なんて全然恵まれているのに、そんなやっと来た幸せに文句なんて言っちゃいけなかった。ホントに、ごめん。」
分からない。解らない。判らない。なんで、なんで?
「 ......なんで。」
「──え?」
「なんで?おかしい。なんでそんなに早くわかるの?なんでのみこめるの?なんで謝れるの?なんで?」
目の前の彼女は、「驚いた」なのか、「困った」なのか、そんなような表情を見せる。
黙っているのがおかしかっただろうか。それとも、何かが口に出てしまったのだろうか。また、そうなのかもしれない。
一度そう思うと怖くなって、
「ごめんなさい。大丈夫ですから、許せますから、だから、ごめんなさい。」
逃げることしかできなかった。
誰かが何か言ったのを、なんとなく感じた。
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