第16話 追求
次の日。いつもと同じように私は朝、部活がない人が学校に来れる時間ぴったりに登校した。フィクションでよくあるいじめよろしく、朝に何かされていたら、早めに痕跡を消さなければいけないからだ。いくらなんでも、証拠があったらごまかせない。
学校に来ている人はみんな部活をやっていて、たくさんの声がグラウンド側から聞こえてくる。
そして、いつもなら耳に届くはずのない──誰かが歩いている音が、こちらへだんだんと近づいてくる。
誰なのかは全くわからないが、私は何かしたほうがいいのだろうか。場合によっては隠れたほうがいいのかもしれない。無数の考えられるパターンが頭をよぎって、もともとそこまで色が良くない顔は、血の気を失ったように青くなった。
私がそれでもずっと見ていた教室の前のドアから顔を出したのは、どこか見覚えのある茶髪の女子生徒。昨日少し話をした、登坂さんだ。
心拍数の上がった心臓は危害を加えてくる人でなかったことにホッとし。それと同時に昨日自分がやってしまったことを思い出し、結局そこから上がることも、下がることもなかった。
登坂さんは私を見つけると、私に向かって手招きをする。入ればいいと持ったつかの間、そういえば他クラスには入ってはいけない校則があったのを思い出した。
警戒しながらも、手招きに従って登坂さんの近くまで移動する。
一体何を言われるかと身構えていると──
「昨日は、ごめん!」
──そう言って、登坂さんが勢いよく、私に向かって頭を下げた。
理解ができない。なぜ? 私こそ登坂さんを不快にさせた。それは疑いようもない事実だ。
──それなのに、なんで?
登坂さんが私に謝るのだ。
「私こそごめんなさい。折角登坂さんが友達になりたいと言ってくれたのに、何も返事ができませんでした。」
私の言葉で顔を上げた登坂さんは、私を見てその瞳を揺らす。
「友達には、なれません。いくら登坂さんが、あの扱いを大丈夫とおっしゃったとしても、私は、私は...。納得も、肯定も、できません。」
そう言ってから、深く深く、頭を下げる。ここから逃げるなんてことできないから、登坂さんが失望して、帰ってくれるように。
どれくらい、そうしていただろうか。目の前に足は見えない。言ってしまったのであろうその事実は、私の心に陰を落とす。
だけど、これでいいのだ。頭を上げ、ふぅ、という漏れ出したため息とともに、「よかった」とこぼす。
そうやって安心しきっていた私の体に、柔らかくて優しい衝撃が、全身を襲った。
「私、友達って認めてもらえなくても、ひっつき虫としてずっと一緒にいるから!お覚悟!それじゃあ!」
そう言い残して、走って自分のクラスに戻っていく。
登坂さんは、してやったりと言わんばかりの笑顔を浮かべていて、その姿は、とても楽しそうだった。
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