第14話 始まり
新しい学校に来てから2、3日経って。
遂に、悠介さんと一緒にいたことについて答えなければいけなくなった。なんとなく分かってはいたのだけれど、やっぱり悠介さんはいろんな人からモテていて、そのせいか噂が広まるのが思っていたより全然早かった。
私は今、3人の女子生徒に囲まれている。1人は隣に座り、もう2人は目の前に立って。
「ねぇ、水澤さん。私、水澤さんと緑川さんが一緒にいるところを見たんだけど、どういう知り合い?」
「うち、緑川さんのお母さんと一緒にいるの見たよ!家族ぐるみのお付き合いなの?」
「えっと、緑川さんとは知り合いで。今、親が遠くにいて、それで色々と助けていただいてるんです。」
流石に3人に迫られるとパニックになってしまう。なんとか前々から考えていた言い訳を口に出した。嘘は言っていない。ただ、細かいことは言っていないだけで。
「じゃあそれで緑川さんのお家にいさせてもらってるんだ?」
「....!」
頭が回らない。もう、もうそんなことまで知られてしまったのかと、ただただ。
口をパクパクさせている私を見て、相手は本当にそうだと確信したようだった。「そうなんだ」と言い残して去っていった。
世界はやっぱり、私に味方してくれないようだ。
私はただ、少しばかりのなんでもない生活を、もう少しだけ楽しみたかっただけなのに。
スタートの合図は、ノートが丸められてゴミ箱に捨てられていたことだ。幸い、さっきの話があった昼休みからそんなに時間が経っていなかったからか、ノートは破られていない。それだけが救いだった。
その次の日も、派手にやると悠介さんにバレてしまうかもしれないと、せいぜい物がゴミ箱に入っているか無視されるかくらいで、そんなに酷いものでもなかったので良かった。大掛かりなことをされると私も隠しづらくなってしまうから。
度々なくなる色々なもの。流石に数え切れないほどされたことがあるからか、そこまで衝撃は感じないし、困ることでもない。物を濡らされでもしなければ、問題なんて何もないのだ。担任の先生は流石に回数が多すぎて気づいたようだったけれど、多分、対処しきれなくて緑川家に報告されることはないだろう。人間関係はうまくいかないけれど、大体そういうことは上手に行くのだ。
次の週。テスト2週間前になって、私に構う時間なんてなくなったようだ。だけどそれは、私ももちろん受ける必要があって。
私は覚えるのが苦手だ。数学みたいな、ただ計算や文章題、解き方を「理解」するくらいなら、なんとか時間をかければそこそこ出来るようになるけれど、社会や理科はそうはいかない。
前はお母さんも職員の人もそんなに成績が悪くても何も言わないような人だったから良かったけれど、多分椿さんはそうじゃない。塾に行かせる、なんてことでお金を使ってしまったら勿体無いどころじゃない。なんとしても最低ラインは取らなくちゃいけないのだ。それがどんなに高いハードルだったとしても。
だけど、そう上手くは行かない。あそこと勉強の進み具合が違って、どうしても理解できていないところがある。周りの人には聞くついでにノートを破られたりしてしまったら困るので、聞けない。先生だと多分変な噂になってしまうだろう。そんなことになってしまったら申し訳ない。
結局、勉強を教えてくれる人はいないのだ。
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