一学期
第13話 学校初日
心配してくれる椿さんと別れて、担任の...桃井先生と一緒に教室へ向かう。
教室があるのは3階で、一段一段登るたび、心臓の音が大きくなっているように思える。
それはみんなの前で挨拶をしなくちゃならなかったり、転入してきて目立つし、たくさんの人と話さなくちゃいけないからだ。実際に転校したことはなかったけれど、してきた人はだいたいそんな感じだった。
私と悠介さんが歩いていたのを少なくとも誰か1人は見たはずだから、それで問い詰められて変なことを言ってしまったら迷惑をかけてしまう。直に聞かれなくともそんな噂話を聞いたら、それには陰口もついているはずで、私のために怒るだろう。余計な心配なんて、絶対にかけたくない。
そう考えていると、あっという間に挨拶をするタイミングになってしまった。ここで立っていてもどうしようもないので、よくあるようなことを言ってから、さっと自分の席に座った。
朝の会が終わると、予想していた通りたくさんの人が集まってきた。みんな口々に何かを話しているのが聞こえる。残念ながらその内容が良いことなのか悪いことなのか、人が多すぎて声がかき消されてわからないけれど。
その中で、長い髪を下の方で結んだ、身長が高く目つきの鋭い人が話しかけてきた。
「初めまして!赤城 理香です、よろしくね。」
「えっと、水澤 玲です、よろしくお願いします。」
反射で挨拶をしてしまったけれど、「赤城」ということはもしかしたら優志さんの妹なのだろうか。聞いてみたいけれど、なかなかこの状況では難しそうだ。
「水澤さんってもしかして、お兄ちゃんの世話になってた人?」
他愛のない、なんでもない質問をされると思っていたら、いきなり答えづらい質問をされてびっくりした。
「えっと...おにいちゃん、というのは、け、賢斗先生のことですか?確かにお世話になりました。」
「そうなんだ。どこらへんに今住んでるの?」
「えっと、その...。」
どうしたら良いか迷っていると、チャイムの鐘の音がなる。すると、私の周辺にいた人たちが、ざあっと席に戻った。
なんとかタイミング良く鐘がなったからよかったけれど、話しかけてきた子...赤城理香さんは、すごく嫌な感じがする。やっぱり平穏なんて、私には無理そうだ。
運が良かったのか今日は座学のみで、ノートを写していれば話しかけられずに住んだから良かった。まぁ、多少隣の人に話しかけられはしたけれど、それぐらいだったから問題ない。
だけど、そう長くは運は続かないようで。帰る時間になった時、とうとう話しかけに来られてしまった。その内容は部活についてのことや遊びの誘いなどなんでもないようなものだったが、話すこと自体、何か言ってしまわないか不安になる。
なんとか話をかわしていると、担任の桃井先生が
「保護者の方が迎えにきているから。」
といって、抜け出させてくれた。実際は仕事だから来てはいないけれど。
家に帰る途中、早く地理を覚えられるようにと周りを確認しながら歩いていると、ベンチに座ってスマホをいじっている悠介さんがいた。
悠介さんはワイシャツに青のブレザーを着ていて、学校帰りなんだと一目でわかる。
悠介さんは私を見つけると、「少し調べ物をしてた」なんて言ってたけれど、学校初日の私を待ってくれていたんだとすぐに分かった。それに気づかないフリをしながら、好きなこととか、なんでもないようなことを話しながら家に帰った。
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