第9話 夕食




「あの...。」


 家に来てからしばらく時間が経って、18時頃。私はとあることが気になって、椿さんに声をかけた。


「今日のお夕食ってどうしますか?お家で食べるのならメニューを考えますが...。」


 ちょっと遅くなってしまいそうです、と付け足すと、椿さんはちょっと驚いたように目を大きくして、そしてニッコリと笑った。


「あぁ、私が作るからそんなこと気にしなくて大丈夫よ。夕食まで疲れているでしょうし、ゆっくりしていて。あ、もしかして食べたいものでもあった?」


「いえ、そうではなくて...。」


 作ろうと思っていただけだ、という言葉をそっと飲み込む。この人はなんで、こんなに優しいんだろう。全く知り合いでもない、赤の他人なんかに、どうしてこんなに気遣えるのだろう。自分のことだけで精一杯の私にはわからない。


「あの、手伝わせて頂けませんか?することもないですし、手持ち無沙汰でなんとも...。」


「ごめんね、今日はどうしても作りたいものがあって、バタバタしすぎて人と料理する余裕が無くなっちゃうし。それに、今日は玲ちゃんの久しぶりの外出なのに色んなところを連れ回しちゃったから、自分ではわからないかもしれないけど、とっても疲れていると思う。だからお願い、ゆっくり休んで?パソコンとかなら、悠介に頼めばやってくれるから。」


 じゃあ、もう作るから。といって、椿さんは台所に入っていってしまった。「お願い」なんて言われてしまったら、私はそれに従うしかないのだ。

 私は諦めて部屋に戻った。


 椿さんに呼ばれてリビングに行ってみると、そこには三人分の食事が置いてあって、既にお二人は席についていた。そのお皿にはハンバーグが載っていたけれど、私の家と違って入っている玉ねぎの大きさが大きくて、こういうハンバーグを作る家庭もあるんだ、と少しだけビックリした。

「いただきます」の挨拶をして食べてみると、味付けや一つ一つの大きさとかが私のお母さんとは違っていて、逆に懐かしくなった。私が私の家独特の作り方で料理を出してみたら、この人たちは一体どんな顔をするんだろうか。なんだかそう考えたら、負担を和らげるためだけにやっていた料理が、少しだけ楽しみになった気がした。




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 5月30日


 今日はいきなり椿さんがやってきて、半ば強引に里子にされて、色んなお店を回った。昔じゃ全く入らなかったようなお店を沢山回ったから、なんだかとても新鮮だった。こんなに新しいことに1日で触れるなんてことなかったから、まるでこれまでと別の人生を送っているようだった。

 これからきっとたくさん問題が起きるだろうけど、ここならきっと、これまでよりすごく生きやすくなる気がする。だから、そうやって私が救われている分、少しでも助けてくれた皆さんへの助けができるようになりたい。



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