第8話 自己紹介




 悠介さんに紅茶を淹れてもらって、椿さんが飲み始めたのを確認し、私も紅茶を口にすると、さわやかな茶葉の香りが広がる。


「おいしい...!」


 思わずそう口に出すと、悠介さんは目を細めて笑みを浮かべた。


「そう?それは良かった。元々紅茶は母さんがもらってきたもので良いものだしね。確かセカンドフラッシュのダージリンだったと思うんだけど。」


「せかんどふらっしゅ」という私の聞いたことのない単語に首をかしげると、椿さんはその行動の意味に気づいたようで、


「まぁ、細かいことは気にせず、美味しくて自分が満足すればなんでもいいのいいの。」


と言ってくれた。

 そして、椿さんの一言により、これから家族になるのだからと自己紹介が始まることになった。ちなみに順番は椿さん、悠介さん、私の順で、あまり話せるようなことが見つからないので私は二人が話したことと同じようなことを話すことにした。


「朝に自己紹介をしたけれど、改めて。緑川椿よ。旧姓は藤本。好きなことは本を読むことと絵を描くことで、昔はよく絵の上手い親戚から絵を教えてもらったりしてたわ。ちなみに職業は声優で、夜に仕事に行ったりもするけど、よろしくね。」


「俺も改めてだけど、緑川悠介。高校3年で、この近くの高校に通ってるよ。好きなことは弓道とか人と話すこと。弓道部に入ってるよ。あまり人に誇れることはないけど、よろしくね。」


「私は水澤玲です。中学2年で、前は家の近くの公立に通っていました。好きなことは...料理をすることなどですかね。あと勉強は苦手です。たくさん迷惑をかけることになるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。」


 二人とも自分の好きなことや、やりたいことが決まっていてすごいと思う。私はいつからか、そんなものはどこかに消えていってしまったから。私が好きなものを言う前に少し詰まったのに気づいただろうか。二人が気づいてないのなら、それで良い。それなら、好きだから、といって家事をすることも変に思われないから。

 そう考えていると、椿さんが一回だけ手をパチンと叩いた。


「ということで、大体の自己紹介が終わったので質問コーナーを開催します!」


「また?」


 椿さんの威勢が良い悠介さんが反応した。また、と言うことはそんなに沢山しているのだろうか。沢山話す機会があるんだろうな。


「ということでトップバッターは私で!玲ちゃんの好きな料理と得意料理は?」


 いきなり私か。えっと、好きな料理と得意料理..か。


「そうですね...。好きな料理は煮物で、得意な料理は、魚のホイル焼きですかね。」


「へぇ、なかなかに渋くて良いね!じゃあ次は玲ちゃん質問して良いよ。」


 質問といっても、どんな質問をすれば良いかとっても困る。変な質問をして気分を悪くさせたら申し訳ないからだ。質問された人が次の質問者なら悠介さんが質問できなかったら困るので、悠介さんへの質問を。


「ええと...じゃあ、悠介さんは好きなお菓子とかはありますか?」


 そう聞くと、その答えに悠介さんは悩んでいる。今度何かでお礼をしたいので、それのために質問してみたけれど、まずお菓子自体好きじゃなかったらどうしよう。


「そうだね、あまり甘すぎるものは好きじゃないかな。マドレーヌとか、タルトとかは好きだよ。」


 甘いお菓子は好きじゃなかったのか。悩ませてしまって申し訳ない。でも、タルトなら作れそうなので良かった。


「それじゃあ、次は俺だよね。玲ちゃんの好きな言葉を教えて欲しいな。熟語とかでも、キャラとか有名な人とかがいっていた言葉でもなんでも。」


 その言葉に、私はあまり間髪入れずにこう答える。


『****』




 ──────────


 案内されたのは、普通の広さの布団以外なにもない部屋。家具を全て無くしたというのは本当だったらしい。


「ここ、玲ちゃんの部屋ね。明日には荷物が届くから。」


「はい、お世話になります。」


 そして、椿さんの笑みとともに、扉が閉まった。

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