第2話 診察



 緑川さんと赤城さんが、「じゃあまた」と出ていって少しぼーっとしていると、ノックの音が聞こえた。ベッドから降りてドアを開けるために、布団を退けようと腕を動かそうとすると、ふと点滴を付けていたのを思い出して、「どうぞ」と言うだけにした。


「起きたんだね。体の調子はどう?」


 入って来たのは、私の食事らしきものを持った男のお医者さんだった。黒髪で、くせっ毛なのか少しくるくるしていた。真っ白な白衣の下には、灰色のワイシャツに青いネクタイ、そして黒いズボンを身に纏っていた。

 白衣を着ていることと、何となく赤城さんと似ていることから見るに、多分ここを経営している赤城さんのお兄さんなんだろう。


「あ、はい、少しなら動けるぐらいにはなりました。」


「そっか。少しは回復したみたいで良かった。食欲はあるかな、ご飯持って来たんだけど。」


「多分食べられると思います。」


「なら良かった。はいどうぞ。」


 差し出されたのは、トマトがベースの長時間煮込まれた野菜スープだった。ずっとお腹がすいていただろうし、胃が驚かないようにということだと思う。

 だけど、暖かいものを食べるなんて何日ぶりだろう。


「いただきます。」


 そう言ってスプーンを手に取ると、少し手が震えている。やっぱり、身体が回復していないみたいだ。もしかしたら、少し走るのだってダメかもしれない。

 器は落とすかもしれないので、テーブルの上に置いたままにする。スプーンで少しすくい、口に入れると私は目を見開いた。

 トマトと人参の甘味が口の中に広がる。コンソメも量が調節されていて、野菜の味が引き出されていた。


「美味しい...!これは赤城先生が作られたんですか?」


 そう聞くと、赤城先生はこめかみの辺りを人差し指でかいた。照れているようだ。


「これは、副院長の白井愛先生が作ったんだ。僕の仕事中の食事とかも作ってもらってるよ。」


「あ、そうそう。僕は、赤城賢斗。優志の9歳上の兄なんだ。一応ここの院長をやってるよ。」


「お若いのに院長なんて、凄いですね。私は水澤玲です。お世話になります。」


 その後私は野菜スープを黙々と食べ、空になった食器を持って赤城先生は部屋を出ていった。

 お腹が満たされたからか、疲れている私に眠気が襲って来た。早く体力を戻す為に、私は眠気に抗わず、眠りについた。


 何か、良くない夢を見た気がした。

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