第6話 「さくら」の気持ち

「東瀬くん」

「何?」

「この子たちは、今はまだ小さいけれど・・・」

「小さい・・・って・・・」

「あっ、この表現は間違ってるね」

佐久良さんは、照れ笑いをする・・・


「でもね、東瀬くん」

「うん」

「春になったら、奇麗な花を咲かせることができる・・・」

佐久良さんは、桜の木の1本に手をやり、感慨深げに話す・・・


「東瀬くん、こっちにきて・・・」

言われるままに、佐久良さんの元へと、歩いて行った・・・

「木に手をあててみて・・・」

「うん」

静かに手を当ててみた・・・


「この子の声、聞えない・・」

「全く・・・」

「こうすれば、聞える・・・」

佐久良さんは、僕の手を握ってきた・・・


思春期の男子だと、同じ年頃の女の子に手を握られると、ドキドキする・・・

でも、それ以上に・・・


今、佐久良さんが手を当てている桜の木・・・

その声が、聞えてくるようだ・・・


「植物にも心があるわ・・・」

それは、聞いたことがある・・・


(佐久良さん、君は・・・)


「不思議そうな顔しないで・・・私は、普通の人間よ・・・」

「そう・・・だよね・・・」

でも、僕なんかに関わる時点で、ある意味不思議だと思うが・・・


「佐久良さん」

「ん?」

「さっき僕に、『この子たちの成長を見届けて欲しい』と言ったけど・・・」

「ああ、その事ね・・・」

佐久良さんは、桜の木にもたれて、話を続けた。


「君がもし、登山をするとするよね?」

「うん」

「その時、いきなりヘリコプターで頂上に着くのと、

ふもとから登って行って、頂上に着くのと、どっちが感動する?」

「後者・・・かな・・・」

「そういうことだよ・・・」

佐久良さんは、微笑む・・・


「ここまでは、正直バスでも来れる。タクシーも呼べる。」

「うん」

「でも、敢えて歩いてもらったのは、君の口から、それを聞きたかったから・・・」

「えっ」

「君に来てもらって正解だった・・・ありがとう・・・」

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