第5話 佐久良さんと桜の木

佐久良さんに誘われて、そのとっておき場所に向かっているのだが・・・


「佐久良さん、まだ着かないの?」

「もう少しよ、がんばって」

「かれこれ、1時間は歩いているような・・・」

「男の子でしょ!」

「はい」

佐久間さんに叱られて、元気が出た・・・

ということにしておこう・・・


もう限界なのだが・・・


「佐久良さん」

「何?」

「体力ついたね」

「褒めてるの?」

「うん」

「話す元気があるうちは、大丈夫だね」

いや、かなり体力がやばい・・・


「♪小麦粉卵に、パン粉をまぶして~」

「コロッケ作ってくれるの?」

「食べたい?」

「うん」

「OK」

今夜はコロッケ、楽しみだ・・・


「東瀬くん」

「何?」

「ばててないで顔をあげて、着いたよ」

「やっと」

「わずか、一時間半だったでしょ?」

(僕には永遠に思えた・・・)


佐久良さんに、言われて見上げると、たくさんの木が並んでいた。

「これは・・・桜?」

「正解」

「じゃあ、手紙描いてあった桜は?」

「この木だよ。正確には、ソメイヨシノだけどね」

ソメイヨシノ・・・聞いたことがある・・・

確か、1本だけ本物で、後はクローンなんだよな・・・


「僕に見せたかったものって」

「そうこの場所・・・まだ花は咲いてないけどね」

「うん」

「春になったら、一面ピンクに染まるんだよ・・・」

佐久良さんは、幸せそうに話す・・・


笑顔を見ると、疲れもふっとぶな・・・


「なら、花の咲く時期に呼んでくれれば・・・」

「それじゃあ、だめなの・・・」

「どうして?」

「なぜなら・・・」

「うん」

佐久良さんの次の言葉の意味を理解するのに、少しの時間がかかった。


「君には、この子たちの、成長を見届けて欲しいから・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る