序章 8
ここは人里を離れた村の外れ。
道祖神と馬頭観音が並ぶ昔の関所の跡だ。
ここから派生する道の、一番寂れた道を行けば山の神様が待つ山に行き着く。
私は、両性具有の神を背負い、この身に宿った災いと共に誰もいない白い道を行く。
私一人が苦しめば、皆、幸せになれる。
どこからともなくそんな幻聴が聞こえてきた。私にはずっとこの言葉がつきまとうことになる。
この祭りの一番の目的は、災いを背負いし人間を村の外に追い出すこと。
追い出した災いのこともそれを引きうけた人間のことも、後のことは誰も考えていない。
私は一人、父に口伝えで聞いていることを実行する。
災いのコト神様を背負い、私は山にひたすら祈らなければならない。
歩いてどこに行くのか。
それは人が踏み入れることを許されていない山の禁域に、災いを供物として置いてくるため。
昔は、人ごと供物だったそうだ。災いの神とその人は命を同じくして、村人たちに、凍える山に命ごとお供えされる。
人が沢山いた頃は、それができたらしい。
間引き、と言える行為だ。口減らしのために村人は、犠牲を捧げた。
何代にも渡り禍々しきものと言われ、忌み嫌われてきた曲原家の人間を使って。
雪が舞う。
あかぎれで赤くガサガサになった手に生温かい吐息をかけても、冷たくて、凍みて凍みて、しょうがない。
死に装束は寒くてたまらない。せめて、ダウンジャケットを持たせてほしかった。
白と灰色だけになった世界で舞う雪に、問いかけるように一つ一つ願いを込めた。
私も幸せになっていいのですか。
私も幸せになれますか。
これで皆、幸せになれるのですよね。
私が、あかぎれで痛くて、災いが重くて、足が凍えすぎて冷たいのか熱いのか分からなくなって、それで皆、幸せになれるのですよね。
白い雪の粒が、赤くなった頬にジュっと付いた。涙なのか、汗なのか。頬を伝う。
父は今までこんな孤独の中にいたのか。
幼い私には、とても苦しかった。
逃げ出したくてたまらない。でも、私は私の特別な力を信じたい。逃げ出せない。
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