序章 5
幼い万能感だったと思う。
私には霊能力があり、神らしき何かと繋がる力があり、みんなのためにそれを使うことができるのだ。
だから、私は全てを呪うことにした。
ある晩秋。
悪夢にうなされて夜を明かした日、まだ暗い明け方に家を出た。
はざかけの終わった藁と白い紙と紐と釘とトンカチを手に、学友林へと向かった。
一心不乱にそれを作った。
古代から人を呪うための呪術とされてきたやり方だ。
藁で人形を作り、紐で形にし、白い紙にそれぞれクラスメイトの名前を書いて、学友林の木々に、トンカチでこれでもかというほど釘で打ち付けた。丑の刻参りというやつだ。
私は齢十一にして、罪人になった。
誰にも理解されないのは、こういうことを本当に現実にやってしまうからなのかもしれない。
みんなに責められた。
教師には、もう学校に来るなと言われ、クラスメイトには無視されるようになった。
父も母も、悲しんでいた。世界中を敵に回しても、私たちだけはあなたの味方だよ、と言ってくれていたのに。
私が、マガマガ(凶々)とアダ名されるようになったのはこの出来事がキッカケだった。
こんな矛盾した行動でしか自分を表現できない。
みんなのためと言って、みんなを呪う。
何がしたかったのか、自分で自分に問いかけるが、答えがない。
誰も目を覚まさなかった。
正義というものは現実のどこにもない。
ただ、おかしい奴がおかしいことをして、余計に孤独になっただけだ。
正義は現実に無くても、悪は現実にある。
人は、集まれば、寄ってたかって悪を裁きたがるもの。
私がその標的になった。
それまでは、バイ菌だったのが、それからは、平穏を侵す凶々しい災禍になった。
怖いと思われているのか、人間として扱われていないのか、私は箱庭を追われそうになりながらも、じっと学校に通い続けた。
退屈な時間だった。
刺すような冷たい視線を四方八方から感じながら、辛抱するだけで過ぎていく時間。
心がうまく機能しなくなっていたのかもしれない。
誰からの言葉も、私には届かなくなっていた。
私を裁きたがるクラスメイトの、チャンスがあれば私を追求するクラスメイトの、あの言葉も、やるべきことをやったと思っている私には、届かないのだ。
私のミスは、逃さず先生に報告する。
みんなで協力して作る時には、私一人だけ邪魔者になる。
誰も味方がいないことに慣れるには、どうしたらいいですか。
自分の心を、何重にも重ねた重い扉で閉ざす他に、守り方が分からない。
どこにでも行けたし、何にでもなれたはずの心を、何重にもなる鎖で雁字搦めにしているのは、私自身。
退屈で、窮屈で、あまりに長い時間だった。
こんなに辛いことが、死ぬまで続くのだと思った。
神などいないのだと気づく。
いる、という人は、祝福された人だけだ。
私は神を冒涜した。人を呪って、その信用を地に貶めた。
神に見放されたし、私も、神を見限っている。
そう、その時は思っていた。
神は、人のことなど何とも思っていない。思う、という言葉も合っているのか、分からないが。
神は、人知を超えた存在だということを、幼い私は知らなかった。
神という言葉も、それを確実に表しているとは言えないのではないか。
私も、大昔の曲原の人間も、それに翻弄されてきた。
その存在は、神らしき何かでしかないのだ。
人が利用することができる次元にないもの。それに、大昔から翻弄されてきた。
人の中にしか、その存在を見つけることができないのなら、私は本当に霊能力などないし、それと繋がる力などないのだ。
無力な私は、今まで大きな世界を観なかったし、学校が全てだと思っていた。
早めに不登校になっていれば良かったのか、とさえ思う。
ただ、私が小学校五年で不登校になっていたら、あなたにめぐり逢えなかった。
だから、あの、辛抱していた幼い私に伝えたい。
よく頑張ったね。もう少しで、掛け替えのない者に出逢えるよ。
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