序章 4

幼い万能感だったのだと思う。

というか、万能感は幼いからこそ抱くものかもしれないが。

小学生の私は、自分の家が、地域の情報を共有する回覧板が回ってこないこと、父が、誰と誰が今この家を除け者にしているかを話しているのを聞いて、特別な力を持っているのだと思っていた。


実際は何の力もなく、この地にいる限り、爪弾きにされるだけの存在であるだけなのだが。


小学校では、みんな仲良くしましょうと言っていた。

みんな違ってみんないいんだと言っていた。

教師だったか、作文を発表したクラスメイトの誰かだったか。


その中で、私一人だけ違和感を感じていた。漠然と矛盾を感じていた。

でも、それは、本当に私一人だけだったのだろうか。

みんな気付いていたはずだ。


みんながみんな、どこかしらに敵を作りたがって、少しでも違和感を逃さないように、それによって誰かを追求できるように、神経を張り巡らせていたのではないか。


私は、バイ菌だった。

鼻クソをつけられたり、パンツの中に小さな虫を入れられたりした。

私が触れる者は、私の菌を誰かに回して楽しんでいた。

私の一人称が、「私」だったのも追求された。

あなたはおかしいのだ、と気付いたら言われるようになっていた。私はもしかしたら、人間扱いされたことがないのでは、と思う。


私にも正義感があった。

誰とでも平等に接するべきだと思っていた。

だから障害のあるクラスメイトにも、みんなと同じを求めていた。甘えるな、と真正面から言ったこともある。


そしてそれは、私がさらに敵をつくることに繋がっていった。


私自身が、障害を持っているのだろう。人と接することを苦手とする障害だ。

そうだと診断されたことはないが、これは、性格である。

私自身の持っているそういう性格が、人目につく個性というか、人に嫌われる原因なのだろう。


私は、何にでもなれるし、何処へでも行けたはずだった。


人に翻弄されて、誰かの意のままに操られる人形でいることを、選んできたのはなぜなのか。



私は教室という箱庭で、全てみんなのため、という大義名分の元に許されない罪を犯した。


こんなおかしいことがまかり通るのか。

誰も本当のことを言わないのはなぜなのか。

全てを呪う。

誰も手を挙げないのなら、せめて私だけは手を挙げよう。


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