4週目:④

 ――五月二十九日。

 それはオレの誕生日――であると同時に、『コンニャクの日』だ。チクショウ。


「さぁさぁこーきくん、キミに誕生日プレゼントをやろう!」

「……一応、覚えてくれたんだな」


 くれる物はどうせコンニャクだろうが、コンニャクの日だからと渡されるより幾分マシだった。

 さっさと受け取って、さっさとお引き取り願おう。そう思いながら手のひらを差し出す。


「じゃーん。はい、これっ!」

「…………」


 てっきり……ひんやりと冷たい、四角くプルンとした物体が、オレの手のひらへ載せられるものと思い込んでいた。しかし、何も来なかった。

 奴からのプレゼントは、コンニャク――では、なかったのだ。

 リオはテーブルの上へ、「どすん」とを置いた。の形はいびつ楕円形だえんけいで、直径は五十センチメートル近い。呆然としつつも持ち上げてみれば、その重さはおよそ一キログラムほどだろうか。オレの知ってる物よりも大分大きく、ずっしりと重い。


「……おい」

「うん?」

「なんだ、コイツは……?」

「なんだ、って――『コンニャク』だろう?」

「だから見りゃわかんだよバカヤロウがぁっ!!」


 思い切り床へ叩き付けそうになってしまう。が、何とか踏みとどまった。

 コイツ――あろうことか、今度はよこしやがった。しかも不気味なほどに特大の。どうしろってんだこんなもん。


「すっごいだろ? こーんなでっかいの、滅多に採れないからね!」

「……一応聞くが、コイツをオレはどうすればいい……?」

「どう、って……そりゃ、もちろん」

「もちろん……?」

「……飾って、鑑賞?」


 リオは可愛らしく小首を傾げ、後光が差しかねないほど綺麗な笑顔を浮かべる。なるほど、これがどっかで耳にした『天使のような悪魔の笑顔』ってやつか。ただただひたすらにぶん殴りたくなる顔だってことを学ばせてもらったよ。

 ……夏になったら、スイカ割りのスイカ代わりに使うかな。それまでは置いといてやる。あー邪魔くせえ。



     ◇     ◇



 その次の朝。

 前回同様、『さて今日は何の日でしょうかー?』などというやり取りを終え、結唯ゆいからのプレゼントを貰う。

 それを見た瞬間――少しだけ、胸がざわついた。


「どしました、こーちゃん?」


 唐突に固まってしまったオレを心配してか、結唯が顔を覗き込んでくる。


「あっ、い、いや……」

「ん~?」


 結唯からのプレゼント――キーホルダー。これは、前回と同じだった。全く同じ、『天使』のキーホルダーだ。

 それは、まだいい。


 ――鍵が、無かった。

 隆則たかのりさんからのプレゼントであるはずの、結唯の家の合鍵が。


 そういえば今回……隆則さんと、全く会えていない。前回よりも結唯の家で一緒に勉強する頻度が減っているせいはあるだろうが……それにしたって、一度も会えないのはさすがに奇妙だ。


「……オマエに、こんなセンスがあったんだなって、ちょっと驚いちまってな」

「なっ、なんと失礼な!」

「だってオマエが選ぶのって、毎回『キモい』か『ブサイク』かの二択だったろ?」

「な……なんですとぉ? それらの可愛さがわからぬとは……くぅっ」


 そんな結唯の姿を見ていると、自然とほっこり温かな気持ちになる。ざわついていた胸も、少しは和らいでくれる。


「まっ、ありがとうな、結唯。大事にするよ」


 キーホルダーを、ギュッと握り締める。

 鍵が無いせいか、それはかなり軽く感じてしまった。

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