3週目:⑤
――とある日。
二十四時を迎え、日付を
「やーやー、こーきくん! はっぴーしてるかーい!」
「……こんな夜中に
突然目の前に現れ、静まり切った時刻に大声で叫ばれる。居るだけでも
お陰様で一息に眠気が吹っ飛んじまった。これから寝ようって時になんてことしてくれやがる。マジ悪魔なんじゃねえかなコイツ。
「何の用だよ……さっさと済ませて、さっさと
「
マジで悪魔だった。
……仮にそれが叶ったとして、結唯が死んだままの世界に戻されたら困る。付き合っていくしかないか……結唯の幸せのためなら何でもする、って誓っちまったしな。くそが。
「……ほら、ちゃんと聞いてやるから。なんだってんだよ?」
「ねぇねっ。今日って、何の日か知ってる~?」
今日? ついさっき日付が変わって……五月の、二十九日?
――まさか……俺の、誕生日……か?
なんでコイツが知って――って、以前に名前を言い当てられたこともあったっけか。神なら誕生日も容易に知れるのだろう。愚問だった。
「オマエ……そんなことも知ってんだな」
「ふふん。ボクをなんだと思ってるんだい」
「はいはい、神様だろ」
「さぁっ、その神様からのプレゼントだ。有り難く受け取りたまへ!」
手を差し出すよう促され、仕方なく応じる。
その手に何やら……ひんやりと冷たい、四角くプルンとした謎の物体がのせられ――って、おい。
これ――『コンニャク』じゃね?
「お、おい。なんだこれは……?」
「なにって、コンニャクでしょ?」
「んなことみりゃわかる。なんで誕生日プレゼントがこんなもんなんだよ……?」
多くの常人ならば最もなことだと同意してくれるはずの質問にも、リオはキョトンとしてしまう。
「……誕生日? なに、それ?」
「は?」
「今日、『五月二十九日』は――『コンニャクの日』だ! 常識だろう!」
「い、いやいや、なんだよそれ!? 初めて聞いたぞ!」
「語呂合わせから生まれたんだよ。
「……」
確かに声が出ない。呆気に取られて、だが。
「そもそも、どうやって入手した?」
「コンニャク芋の栽培なら普通にボクらの故郷でもしてるんだよ」
「へ、へえ」
「そして何を隠そう、そいつはボクの手作りだ。光栄に思うがよい」
「……そうか。サンキュな」
正直突っ込みたい衝動に駆られるが、適当に礼でも言ってさっさと話を切り上げてしまおう。もう一切言葉を発したくねえ。どっと疲れた。
ああ……神って、すげえなぁ……。
◇ ◇
「こーちゃん、おはよー」
「ああ、おはよう」
「ふっふー。さて今日は何の日でしょうかー?」
ニコニコと何とも上機嫌な様子でクイズを出してくる。
スマン、結唯……このやり取り、既に先客がいるんだ。日付跨いだ直後に来るという傍迷惑な野郎がいたんだ。
できればオレも、このタイミングで答えを悩みたかった。あの悪魔マジで許さねえ。
「……コンニャクの日、か?」
「ぶっぶー! ――って、今なんと仰ったんです? コンニャクの日とかほざきました?」
「ほざいちまったな」
これからオレは誕生日を迎える度に、あの悪魔とコンニャクの存在を思い出さねばならなくなってしまった。なんだよこの最悪な災厄。泣きそうなんだが。
「コンニャクは美味しいし大変
やめてくれ結唯、マジで泣きそうだ。大事な日と言ってくれるのは嬉しいが、コンニャクと比べられるというのが屈辱でしかない。
いや、決してコンニャクを見下しているわけじゃないんだ……失言が過ぎた。許してくれ、全世界のコンニャク愛好家のみんな……。
「あ、ああ……そうだったか」
「そうだったのですよ。なので、はいこれっ」
笑顔でオレの手を取り、何かを握らせてくる。
結唯は――ちゃんと、まともな物をくれるよな……? すっかり弱気になり、そんなことが頭を
「……キーホルダー? それに……鍵?」
手の中にあったのは、キーホルダー付きの鍵だった。
「はいっ。私からのプレゼントはキーホルダーの方だったのですが、それを見たお父さんが、『なんなら一緒にそれもあげていいよ』と言って下さいまして」
「
「ご明察なのです。それから、『
「なるほど、な……」
いつでも出入りしていい。自分の家と思っていい。
そんな意味もあるだろうが、最もシンプルで、最も伝えたかった想いは――『結唯のこと、頼むよ』だろう。
……そこまで、仕事が忙しいのだろうか。それとも……何か他の事情があるのだろうか。
気にはなる。が、内心首を振る。それはオレが関与すべきものではないと感じたから。
いつぞやリオが言っていた。『神だって全ての人を救うことなどできない』と。ましてオレは人間だ。一人の人間を救おうとすることで手一杯であり、それさえ上手くいってるのかも怪しい。他のことにかまけてる余裕など無いと思う。
だからオレは、託された想いを――結唯を守っていくだけでいい。それがきっと、隆則さんにしてあげられる最善でもあるはずだ。
あらかた考えがまとまったところで、ふと結唯からのプレゼントであるキーホルダーに目が留まる。神秘的なデザインで綺麗に光るそれは結唯らしくもあるが、そう派手なわけではない。このぐらいがオレの好みだろうと想像しながら選んでくれた物なのだろう。
事実、寒色系の色合いや、手のひらに容易く収まるサイズ的にも、オレの趣味に合う物だった――が、少しだけ違和感を覚えた。
「なあ結唯、オマエこういうの好きだったっけか?」
「んー。いつからとか、何がきっかけだとかは覚えてないんですけど、好きですよ。なんとなーく」
「そう……だったか」
「こーちゃんの好みには合わなかったですかね?」
「いや、別に嫌いなわけじゃないんだ。ありがとな、大事にするよ」
そう言ってオレは笑顔を向ける。……その表情が引きつってなければ良いのだが。
――結唯がくれた、キーホルダー。
知る限り、結唯がそういった存在に興味を示した覚えは無い。かと言ってオレも、結唯がいきなり変なものに興味を示したところで、さほど気にしなかったことだろう。
それが――最近オレに
たまたま……だよ、な……?
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