悪夢 全て知ってたの
息を切らしながら、大手門をくぐり抜ける。天守閣のふもとへ行くと、小さな城ながらも僕を入らせまいとする重圧で押し潰されそうになる。
受付で、鞄は疎か財布も持たずに来たことを悔いた。何とかして入れてもらえないかと苦悶していたところ、受付のおばさんが、もしかして……と僕の名前を呼んだ。
「なんで、僕の名前を……」
「何時間も前に、えらいべっぴんさんが、この人が来たら上で待ってることを伝えてって言って中に入ったんだよ。アンタ彼氏さんだら? 待たせすぎちゃだめよ。お金いらんからはよ入りん」
方言混じりで応えたおばさんに、一礼して僕は天守閣を駆け上がった。
刀やら甲冑やらが頓挫しているのを歯牙にもかけず、ただひたすらに階段を上る。
どの階も、人の気配がない。一抹の不安を覚えながら、ついに最後の一段を踏んだ。
膝に手をつき、肩で息をする。自分の顔からぽたぽたと汗が床に落ちているのが分かる。
「どれだけ待ったと思ってるの。遅刻よ遅刻、大遅刻」
汗が引いた。風鈴を鳴らすそよ風が、僕の耳に触れる。顔を上げると、以前と同じ純白のワンピースの彼女が、漆黒の髪をかきあげて微笑んだ。
「……ごめん、ほんとにごめん」
「別に謝らなくてもいいわ。絶対ここに来るって信じてたから」
「そうじゃなくて……」
ここまで休むことなく走ってきたからか、息が詰まる。彼女は不思議そうに首を傾げていた。
「僕は疑ってたんだ。君はもしかしたらもう、この世にいないんじゃないかって」
喜び混じりで言ったから、笑顔を見せてくれると思いきや、悲痛に顔を歪めていた。
「言わなきゃいけないね、本当のこと」
全身に悪寒が走った。
「本当の、こと?」
「あのね、驚かないで聞いて欲しいし、今から言うことを信じて欲しい」
断末魔のような蝉時雨が、この狭い空間に鳴り響く。
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