悪夢の兆し
新幹線から在来線に乗り換えて、別れの挨拶も早々に二人とも家路についた。
また会えるんだし。
太陽は沈んだが、西の空はうっすらと明るみを帯びている。
少し困ったことになった。数名のクラスメイトに見つかってしまったのだ。
「お、偶然じゃん。一人か?」
「う、うん。そうだよ一人」
「なんか怪しいな……デートだったのか?」
「まさかあのお嬢様と?」
やばい。ばれそう。彼らは彼女を溺愛しているグループだ。もしばれてしまったら、騒動が起こる。
「違うよ」
「いやいや。だってあいつと去年からずっと仲いいんだろ?」
ん? 去年?
一筋の冷たい汗が背中をなぞる。
「毎朝一緒に教室まで送ってるし」
やっぱり彼女のことだよな?
「美人な金持ちと付き合えるなんて、俺は羨ましいぞ」
……金持ち。
「誰のことを……」
「あ、悪い俺らもう行くわ。お嬢様を大切にな」
そう言って彼らは、あまりにも余計な一言を加えて去って行ってしまった。
太陽の代わりとなった街灯が、脚を開いて地面に横たわる蝉を照らす。
闇色に染まる世界の中、僕の頭はおぞましいこと考えてしまった。
彼女は、この世にいない。
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