半分本気

 翌日。案外簡単に手に入れることのできた彼女のメールアドレスを眺めていると、新着メールが一件入ってきた。

 どうせまた、どこから仕入れているのか分からないような豆知識を披露するに違いない……はずだったのだが、それはとんだ間違いのようだ。

『やっほー元気? 今度の金曜日、一緒に小旅行でもどう? もちろん日帰りだよ☆』

 一日も経たずして分かったことがある。それは彼女がメールだと性格が変わるタイプだということだ。メールと言えばスパムや広告しか見てなかったので、星やら顔文字やらが散りばめられた華やかなものは、かなり新鮮だった。

 しかし旅行か、日帰りなら何も問題はない。僕も少しリフレッシュしたいところだったし。

 快諾の返信を打とうとしたところ、もう一件追加メールが送られてきた。

『あ、君がお泊まりしたいって言うなら、それでもいいよ?』

 呆れたものだ。僕が彼女と二人きりでお泊まりなんて……あの美少女と、二人きりで、お泊まり……?

 庭の木にいる蝉が、返信を急かすかのように鳴いている。

 ここでしたいって言ったら節操ない感じに思われるかな。いやでもこんなチャンスはもう二度と無いような……。

 返信画面を開いたまま葛藤に葛藤を重ねていると、またもや追加メールが来た。

『お泊まりできるようなお金ないから、やっぱり日帰りで!』

 文末の、舌を出しておどけている絵文字に腹が立った。

『もちろんそのつもりだよ。お泊まりなんてするわけないでしょ』

 なんだか自分宛てに書いている気分だ。……やっぱり日帰りってことは、実はお泊まりする気だったのだろうか。いや、まさかそんな。でも、もしかしたら。

 葛藤の雲は晴れない中、庭の蝉はもういなくなっていた。

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