怖かったの
人の噂も七十五日と言うが、どうやら高校生の場合はもっと早いらしく、数日もすれば僕を取り巻いていた集団はいなくなっていた。
「おはよう」
「おお、おはようおはよう。今日もお嬢様のエスコートか?」
新聞をぱらぱらとめくりながら声をかけてきたのは、前の席のかれだ。。
「今日もお嬢様はご機嫌でしたよ。お父さん」
お父さん言うな、と彼が答えるのがいつもの朝の挨拶だ。
しかしこのご時世、新聞を日課として読む高校生は珍しいだろう。しかも学校で。
「いつも思うけど、スマホじゃだめなのか?」
「前試したけど、一度世間の噂に惑わされて、虚構ニュースを流した社があったんだ」
「有名な所だったら少ないんじゃないの」
「名のある社のは金かかるだろう? 家で何社か取ってるし、それにこれ見ろよ。こういうのが紙だと味出るんだよ」
僕を覆い被せんばかりに大きく新聞を広げ、小さなコラムを指さす。
「ええと、『みんなの不思議体験──最近どうもおかしなことが起こる。ここ一年の私の記憶が曖昧で、友達と話が噛み合わないことが多く……』」
この後もつらつらと記憶違いのことついて書かれていた。
「……もっと和やかなものじゃないのかこれ。というかこの人認知症なんじゃ」
「いやあ、いつもは確かにお化けとかゆーふぉーがどうこうって書いてあんだけど、最近この手の類のが多いんだよなあ」
「それが不思議体験ってことか」
「確かにそうかもしれん。よし、投稿してみるか」
勢いよく新聞を畳みカバンに無理やり新聞を突っ込むと、ボールペンとメモ帳を取り出してがしがしとペンを書き進めていく。
「おいやめろ、新聞の一コーナーを混沌に巻き込むな」
多少本気の制止だったのだが、彼は手を止めてはくれなかった。
しかしあの投稿者、文面から考えて恐らく女性で、しかも学生だということに驚きだ。若年性アルツハイマーというやつなのだろうか。
その日の帰り。彼女は怪訝そうな顔で、甘酸っぱい青春の味がするという乳酸菌飲料を、喉を鳴らしながら飲んでいた。
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