僕,小説を書いてみようと思う

@10-

第1話 僕,小説を書いてみようと思う

「僕,小説を書いてみようと思う」


小学生の時からいつもそうだ.思ったことをすぐに口にしてしまう.

感情を自分の中に閉じ込めていられないのだ.

この性格のせいで何度損してきたのか,数えきれない.


「お,そうか.今回の趣味は長続きするといいな」


教室の中央,一番後ろの席に座る見慣れ過ぎた顔がそう答えた.

どうやら僕は腐れ縁の彼にそう思われているらしい.


「心外だぞ ただ僕は新しいことに挑戦する,という趣味に没頭してるだけだ」


そう,僕は新しいことに挑戦するということが好きだからいろんなことをやっている,はず

今回挑戦したいことが趣味チックだったんだ


「そう言って自分の飽き性を肯定してるだけじゃないのか まあ他人の趣味には口出しはしないが」


「む そういわれると賞ぐらい取ってやろうじゃないか そのうち僕の才能にひれ伏すぞ」


そうやってまた大口をたたくのが僕の悪い癖だ.これだからイキリとか言われてしまうんだろう.まあとにかく書いてネットくらいには上げてやる.そう決意した.


「せいぜい完成させて見せてみろよ.採点くらいはしてやるぞ」


そう言い終わると同時に教室の扉が開いて教師がチャイムを入場曲に職場に入ってくる.

月曜のショートホームルームというのは,とてもやる気のない雰囲気が漂っている.

明らかに生徒からだけでは計算の合わない,負のオーラが教室に漂っている.


 あぁ 教師も月曜は憂鬱なんだな


そう思ってる間に,教師が惰性で一限に駒を進めていく


担任の教師だが,彼の授業は月曜日の一限だけ.

どうやらこの授業のゆるさは,彼のやる気の無さから来ているようだ


 小説を書こうと思ってから新しい気付きしかないな.


そんなことを思いながらこの授業を有効に使うべくノートの新しいページを開いてその上にルーズリーフをさりげなく置く.


 さて何を書こうか


早速,自分の中で”筆”と命名したシャープペンシルが止まる.

しかし教室の黒板の筆は止まらない.その運動エネルギーが自分の筆に欲しいものである

 あ,位置エネルギーもか.


そんなことは置いておこう.僕に物理に関して聞く方がお門違いというものである.

何せ僕は今日の補習に引っかかっているからである.理系なのにね

そんなことよりもさっさとテーマをきめなくてはいけない.この緩い五十分を有効に使わなければ.


この世の中の小説には色々な種類のものがある

恋愛小説.恋愛小説.恋愛小説.エロゲシナリオ.恋愛小説


因みにこの中でおすすめは四番目の恋愛小説(エロゲシナリオ)だ.


世の中恋愛小説しかないのではないのだろうかと思えるレベルで恋愛小説しかないのである

ただ漠然とそう思う.どの小説を読んでも,女と男が出てきてイチャコラやっている.

そうではないだろうか.自分は世の中に問題提起をしたい.


これだけ恋愛小説しかないのでは,自分も恋愛小説を書くしかないのではない,そう思ってとりあえず,ルーズリーフに恋愛小説と見出しとして書いた.

この初速度を利用して完成させていきたいものである.


これ以上は思いつかない,そんな気がした.

”筆”を置き顔を上にあげる.教師もどうやら筆を置いたようだ

少し間をあけてから,伸びをしながら立ち上がり礼をする.


今日はこれを六回と一回繰り返して家に向かった.


「お,小説はできたか」


補習に引っかかっていないはずの友人が後から声をかけた.


「そう簡単に小説が書けたら苦労はしないぞ」


にやにやされたのでムッとして彼にそう答える.

なんで授業中に小説書いているのがばれているんだ.


「俺は,一番後ろの席だからお前の行動くらいすぐ目に入るわ」


まるで僕の考えを読んでいるように答えてくる.

流石腐れ縁としか言いようがない.そんな顔をしながら隣に並んで家へ歩を進める.


「まあ,小説ができるのを楽しみに待ってるから.完成できたら,だけどな」


そう言われて彼の家の前で別れた.


「最後に一言が多いぞ.だからいつまでたっても童貞,いや彼女ができないんだぞ」


そう言い返して,足を交互に前に出す.

どうやら夕飯は焼き魚のようだ.独特のにおいが外に流れ出ている.

焼き魚は酒の肴だ


「赤点 補習」

そう採点し,扉を開けながら帰宅報告を済ませる.


「ただいま」と



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